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【社会】

僕は被災者に救われた 引きこもり男性 支援体験記出版

中村秀治さん

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 長年の引きこもりから脱し、東日本大震災の被災地支援に赴いた体験記を、中村秀治(しゅうじ)さん(32)=長崎県佐々町(さざちょう)=が2月に出版した。要望を尋ねて回る仮設住宅訪問は緊張して声が震えたが、被災者から必要とされていることを実感した。「無価値だと思っていた僕の存在を受け入れてくれる人たちがそこにいた。僕は救われた」と記した。 (辻渕智之)

 「…あの…、ひ、必要な物や、お困りごとは、ありませんか……」

 仮設住宅のチャイムを押すのに、人と話すのが怖くて足がすくみ、指先が震え、吃音(きつおん)が出た。それが、いつしか年配の被災者からは明るく抑揚ある声で「おーい、中村くん!」と呼ばれるようになる。かつて流行した歌謡曲「おーい中村君」のフレーズだった。

 中村さんは小学六年から二十五歳まで家に引きこもった。

 夜間高校に通った四年間と、卒業して十カ月働いたのを除き、家族以外と人間関係がなかった。震災後に「自分も行きたい…」と母親にぽつりと言って自ら志願したものの、「僕はなぜ被災地でボランティアをしているのか」と自問は続いた。

出版された「おーい、中村くん〜ひきこもりのボランティア体験記〜」

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 活動は宮城県内で二〇一一年九月から約三カ月に及び、その終盤。仮設で一人暮らしの高齢女性は「もう支援は結構。ただ、誰かが会いに来てくれるだけで。あなたでいいんです」と大粒の涙を流した。家族を失い、地域の人と離れ、孤独を感じている被災者のつらさと、引きこもりで抱えてきた孤独の苦しみが重なり、中村さんも涙した。

 引きこもりに詳しく、中村さんと交流のある横湯(よこゆ)園子・元中央大教授(教育臨床心理学)が出版を勧めた。「大変な思いをした被災者から『あなたはあなたでいい』と言葉を掛けられ、中村君は逆に支えられた。引きこもりの青年が外に出て、自分を取り戻していく貴重な体験」と指摘。「おっかなびっくりだった彼が人前で発表をし、対人関係も自信を持って結べるように変わった」と話す。

 中村さんは絵を描くのが好きで、本の表紙のイラストも自ら手掛けた。最近は引きこもりの当事者や家族の支援を続ける地元のNPO法人に通い、小説や漫画の創作をしている。知り合った被災者や支援者とは連絡を取り合っている。

 本は「おーい、中村くん 〜ひきこもりのボランティア体験記〜」(本体千五百円)。問い合わせは、発売元の生活ジャーナル=電03(5996)7442=へ。

 

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