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【社会】

老舗旅館「風評被害続いている」 いわき湯本、賠償打ち切りに悲鳴

業態変更前に自分ですることはなかったという宿泊客向け朝食の準備をする大場敏宣社長=福島県いわき市の旅館「岩惣」で

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 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の後、福島県いわき市にある「いわき湯本温泉郷」の旅館は客足が軒並み遠のき、苦しんできた。昨秋には東電側が風評被害の収束を主張し、旅館の求める営業損害賠償に応じない姿勢を示した。老舗の一軒を訪ねると、のれんを守るため「苦肉の業態変更」を強いられていた。 (辻渕智之)

 「目玉焼きとスクランブルエッグ、どちらにされますか?」。一階の朝食会場で女将(おかみ)の大場ますみさん(63)が宿泊客に尋ねる。社長の敏宣(としのり)さん(65)も自ら準備を手伝っている。以前は見られなかった光景だ。

 一九五一年創業の旅館「岩惣(いわそう)」。昨年十二月から夕食の提供をやめ、素泊まりか軽い朝食付きだけの営業に変えた。価格を安く抑え、客層の拡大を図る。そして経費削減のため、板前や仲居ら十人近くを解雇した。今は社長と女将ら最少人数で運営する。

 事故前に月千人程度いた宿泊客は半分しか戻らず、年一億数千万円あった売り上げは六〜七割に減った。しかし減益分への賠償を東電は昨年七月分までの一括支払いで打ち切った。

■戻らぬ宿泊客

 東電側は昨年十一月、「(営業損害と)原発事故との相当因果関係を確認できない」と結論づけた。「常磐エリアにおける観光に関する風評被害の存在を認識することは困難」と主張。根拠として、JR湯本駅の乗車人数や一部の観光施設の客数が事故前を上回ったことなどを挙げた。

 しかし大場社長は「風評被害は続いている」と反論する。温泉郷全体の入湯税の申告人(納税者)数や別の観光施設の客数が事故前の六〜七割と指摘。そして「私たちは地の魚を使い、その味を看板にしてきた。でも漁はまだ試験操業。そんな状況でまともな営業ができますか」と問う。

 同温泉旅館協同組合の草野昭男理事長(62)によれば、加盟二十三軒で平均すると売り上げは事故前の六〜七割。「目に見えない風評被害以外の何物でもない。組合としてデータを丁寧に示し、東電の判断を覆したい」と話す。

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■フラ女将も

 いわきにはフラガールで知られるレジャー施設「スパリゾートハワイアンズ」がある。そこで温泉郷の女将たちは三年前から「フラ女将」を自称し、フラを着物姿で踊り始めた。岩惣の女将ますみさんは仕掛け人。地元の催しなどで笑顔を振りまくが、旅館の業態変更は「ほんと、つらかった」と打ち明ける。夕食や宴会付きの宿泊を予約したいという電話が入るたび、断るしかなかったからだ。

 東電はホームページで「原発事故の責任を全うし、賠償、復興推進、廃炉を着実に進める」とうたう。にもかかわらず、昨年八月以降の賠償継続に応じていない。「(七年経過して)賠償はもういいんじゃないかという判断に思えます」。終始穏やかな口調だった大場社長が突然、うめくように漏らした。「私たちは補償をやみくもによこせと言ってるんじゃない。お客さんが欲しいんだ」

 

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