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【社会】

福島米「安心」まだか 県の全量全袋検査縮小 農家懸念

福島県本宮市の検査場で、米の放射性セシウム濃度を測定する検査員ら=2012年撮影、福島県提供

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 福島県は今月、東京電力福島第一原発事故後から続けている米の「全量全袋検査」を見直し、早ければ二〇二〇年産米から抽出検査へ切り替える方針を決めた。検査には年間六十億円かかる一方、国の基準値(一キロ当たり一〇〇ベクレル)を超える放射性セシウムは過去三年間、検出されていないためだ。ただ、価格は震災前の水準に戻っておらず、農家などからは安全性のPRを続けるべきだとの声も上がる。(藤川大樹)

 安達太良山(あだたらやま)の東に位置する福島県内有数の米作地帯、大玉村。明治時代から続く米農家の四代目、伊藤一男さん(64)は「県産米の安全性が末端の消費者まで伝わっていない。個人的には、二〇年でも時期尚早だと思う」と、見直しに不安を隠さない。

 他の農家と一緒に農業生産法人「あだたらドリームアグリ」を一五年に立ち上げた。「地域の田んぼを守り後継者を育てたい」と伊藤さん。後継者がいない土地を預かり、娘夫婦を含め社長以下五人で東京ドーム約十個分に相当する五十ヘクタールの田を耕す。収穫量は三十キロ入りの袋で九千袋に上る。

 福島県内の農家では震災後の一二年以降、カリウム肥料の散布を続けてきた。セシウムと科学的に似た性質を持つカリウムは、農作物のセシウム吸収を抑える働きがあるためだ。

 こうした安全対策が奏功して一五年産以降、国の基準値を超える放射性セシウムは検出されていない。一七年産で検査した約一千万点はすべて五〇ベクレル以下。99・99%以上が検査機器で検出できる限界値の二五ベクレルを下回った。味の評価も高く、福島県産コシヒカリは一七年産米の食味ランキングで、会津と浜通りが最高評価の「特A」、中通りが「A」を取得した。

 しかし、出荷業者と卸売業者との相対取引価格(一月の速報値)は、ブランド力のある会津産コシヒカリでも、玄米六十キロ当たり一万五千百八十一円で全銘柄平均を四百十五円も下回る。JAふくしま未来安達地区本部の渡辺孝彦次長(54)は「福島県のコシヒカリは震災前、新潟県産に次ぐ評価を受けていた。価格が戻らないのは風評だと思っている」と話す。

 震災後、都内のスーパーなどの商品棚で福島県産米を見る機会は減った。多くはコンビニのおにぎりやお総菜など中食(なかしょく)・外食用に回っている。山形の「つや姫」や青森の「青天の霹靂(へきれき)」など新興ブランド米が次々と登場し、産地間競争が激化しているからだ。

 福島県東京事務所の担当者は声を落とす。「震災後、他県産の米に置き換わってしまった。福島フェアなどでスポット的に県産米を置いてもらっているが、一度失った『棚』を取り戻すのは難しい」

◆安全性の周知優先を

 東京大学大学院の関谷直也特任准教授(災害情報論)が昨年2月、約1万人を対象に実施したアンケートでは、「積極的に福島県産は避けている」と回答した人は、福島県外で19.8%、県内では12%にとどまった。福島県産への「抵抗感」は年々薄れている。

 一方、県外に住む人で米の全量全袋検査を知っているのは40.8%、放射性セシウムがほぼ検出限界値未満であることを知っているのは17.5%にすぎない。関谷氏は「ハイレベルの検査体制や検査結果が伝わっていない。全量全袋検査を見直す前に、あらためて消費者に安全性を周知していく必要がある」と指摘した。

 <全量全袋検査> 福島県が2012年産米から実施する放射性物質検査。県内173カ所の検査場でまず、農家から持ち込まれた玄米30キロ入りの袋をすべてベルトコンベヤー式の装置で検査。1キロ当たり100ベクレルを超える可能性があると判断された袋はすべて、精度が高いゲルマニウム半導体検出器で詳細検査を行う。詳細検査で100ベクレルを超えた場合は隔離・保管し、市場には出さない。

 

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