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【社会】

内田康夫さん死去 83歳「浅見光彦」シリーズ

内田康夫さん=2014年8月、長野県軽井沢町で

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 テレビドラマ化もされた浅見光彦シリーズで知られる作家の内田康夫(うちだやすお)さんが十三日、敗血症のため死去した。八十三歳。東京都出身。葬儀・告別式は近親者で行った。喪主は作家で妻の早坂真紀(はやさかまき)(本名内田由美(うちだゆみ))さん。

 お別れの会は行わず、二十三日から四月二十三日まで、軽井沢町長倉五〇四の一、浅見光彦記念館に献花台を設ける(休館日を除き、開館時間帯のみ)。この期間は入館無料。

 CM制作会社の経営をしていた一九八〇年に自費出版した長編「死者の木霊」が注目され、四十六歳で作家デビュー。出版社から注文が来るようになり、専業作家に。八二年の「後鳥羽伝説殺人事件」から始まった浅見シリーズで人気に火が付き、西村京太郎さんと並ぶ旅情ミステリーの書き手として活躍した。

 ルポライターが日本各地で難事件を解決する浅見シリーズは映像化され、テレビドラマでは榎木孝明さんや辰巳琢郎さん、中村俊介さんらが浅見役を演じた。「天河伝説殺人事件」は市川崑監督によって映画化された。

 浅見シリーズは累計約九千七百万部。信濃のコロンボシリーズや歴史小説「地の日 天の海」などを含め、著作の累計発行部数は計約一億一千五百万部。八三年に軽井沢町に転居。二〇〇八年に日本ミステリー文学大賞を受けた。

 一五年七月に脳梗塞で倒れ、リハビリに励んだが、一七年三月に「書き続けることが難しくなった」として休筆宣言。浅見シリーズ百十四作目の「孤道」を未完のまま出版、完結編を公募した。

◆北区と関わり深く

 内田さんは出身地の東京都北区で「北区アンバサダー(大使)」を務め、区は2002年度に、内田さんの協力で「北区内田康夫ミステリー文学賞」を創設。本年度で16回目を迎えている。代表作に登場する浅見光彦も区内に住む設定。区はファン向けに「名探偵★浅見光彦の住民票」を作成し、1通500円で販売している。

 03年には本紙朝刊に、ミステリー小説「化生(けしょう)の海」を連載した。

◆社会問題への視点反映

 才能とはこういうものなのだろう。内田康夫さんは、読者に愛され続けるミステリーを、いつも「設計図なし」で書き進めた。それなのに一冊が仕上がってみると見事な謎解きがされている。「結末が近づくにつれて、伏線となる部分が見えてくる」と、さらりと話していた。

 ルポライターの浅見光彦を主人公にしたシリーズは百作以上あり、テレビドラマでも人気の代表作。長野県軽井沢町には、作品ゆかりの資料が並ぶ記念館もある。内田さんは、浅見のことを「自分の分身」と語り、一緒に推理をしながら物語を紡いできた。「同じ人物ばかり書いていては面白くないだろうという意見もある。でも僕はそんなことなかったですね。旅をしながら歴史や伝説を発掘する。本当に面白かった」。インタビューで、懐かしそうにこれまでの執筆を振り返る姿は、育ちが良く朗らかなキャラクターの浅見と、たしかに重なって見えた。

 内田さんの作品は、軽やかでユーモアあふれる旅情ミステリーの印象が強いが、それだけではない。捕鯨問題を扱った「鯨の哭(な)く海」、北朝鮮のミサイルの話が出てくる「氷雪の殺人」など、その時々の社会問題への視点が、物語に反映されている。

 二〇一四年に刊行した「遺譜」は「最後の事件」として書かれたものだ。永遠の三十三歳という設定だった浅見が、ついに三十四歳の誕生日を迎える。内田さんは、ほどなくして体調を崩し、やがて昨年の休筆宣言に至った。

 まだ書きたいとの意欲を持っていたが、その幕引きの見事さに、作家としての信念を感じずにはいられない。 (中村陽子)

 

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