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【社会】

里親との懸け橋に 「預かる」から「託す」へ

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 死別や虐待などさまざまな事情で親と暮らせず、社会が代わって育てる必要のある子どもが、この国に約三万六千人いる。その大半が施設で集団生活する。長野県上田市の小さな乳児院は、子どもの幸せを最優先に考え、積極的に里親など家庭に養育を託す方針へと転換した。きょう五日は「こどもの日」。 (安藤美由紀)

 「0〜2歳の赤ちゃんを短期間、ご自宅で預かってくださる方を募集します」。昨年六月から、上田市の公共施設や飲食店に張り出されている里親募集のポスターだ。つぶらな瞳の赤ちゃんの写真が目を引く。

 作成したのは市内の「うえだみなみ乳児院」。里親は子どもを長期間預かるイメージが強いが、「親が入院している間」などの短期ニーズも多い。ポスターで「短期間」と強調したことが功を奏したのか、今年三月までに六十件問い合わせがあり、十六世帯が里親登録に向け手続きを進めている。

 同乳児院は、市営だったのを社会福祉法人「敬老園」が引き継ぎ、二〇一一年三月に発足した。法人が運営する老人ホームなどが入る六階建てのビル二階、約九十平方メートルのスペースに、十カ月〜二歳九カ月の六人の子どもが暮らす。家庭的な雰囲気を心掛け、保育士は子どもと一緒に給食を食べ、風呂に入る。

 それでも特定の大人と二十四時間一緒にいられる家庭とは違う。日中は七人の保育士がほぼマンツーマンで世話できる時間帯もあるが、勤務時間の八時間で交代する。深夜から朝までは見守る保育士は一人だ。子どもの育ちには、特定の大人との安定した関係に基づく「愛着形成」が重要とされ、丸山充院長は「努力はしているが、施設では限界がある」と打ち明ける。

 厚生労働省の一六年度末データでは、親と暮らせない子どもの八割以上が施設に入り、里親などと暮らす子どもは18・3%にとどまる。欧米では里親委託が主流。先進国で日本のような施設偏重は少なく、一六年五月、施設から家庭養育へ転換する方針を明記した改正児童福祉法が成立した。

 その後まもなく開かれた会合で、丸山院長は、児童精神科医の上鹿渡(かみかど)和宏長野大教授の講演を聞いた。英国では、施設が家庭養育の支援へかじを切ったという。「これだ」。教授から助言を受けながら、乳児院の事業を根本から見直した。

 一七年度から、里親のなり手探しのほか、里親家庭の支援、特別養子縁組の仲介もスタート。予期せぬ妊娠をした女性の相談窓口も近く開設し、虐待など不幸な親子関係の予防にも取り組む予定だ。丸山院長は「うちの子どもがゼロになることも想定している。子どもの最善の利益のため、預かるだけの施設からの転換を目指している」と語る。

 課題もある。現制度では、子どもの在籍人数が減ると国から支給される運営費が減り、経営に響く。暫定措置として里親支援に積極的な場合の上乗せ支給はあるが、続くかは不透明だ。上鹿渡教授は「特に乳児は施設ではなく家庭で育てるのが世界の流れ。法改正を下支えする制度へ早急に見直しが必要」と指摘する。

抱っこしたり、あやしたり、母親のように子どもたちと接する保育士ら=長野県上田市のうえだみなみ乳児院で

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