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【社会】

<リーグ開幕25周年 Jのある社会> (下)FC東京「分身ロボット」

兄弟が「オリヒメ」を活用してサッカー観戦する様子=FC東京提供

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 サポーターが拳を突き上げると、ロボットも腕を振り上げた−。昨年九月、東京都調布市の味の素スタジアムでの仙台戦。FC東京は、遠隔操作ができる分身ロボットを使ったサッカー観戦という一つの試みを行った。タブレット端末でロボットを操るのは、スタジアム近くの榊原記念病院に入院中の高校生。大学生の兄と中学生の弟がそのロボットを抱き、熱気が包むスタジアムを訪れた。

 分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」は高さ二十センチ超、重さ六百グラム弱でカメラやマイク、スピーカーを内蔵し、無線LANを通じて操作する。ボタン一つで拍手したり万歳したりと感情を表現できる。「三兄弟」がゲートをくぐり、グッズ売り場や飲食コーナーを回ると、ロボットの首が時折、右へ左へ。兄弟の弾む会話やスタジアムの高揚感を、病室の少年はロボットを通じて味わった。兄弟は「一緒に観戦できてうれしい」と笑った。

 FC東京の久保田淳・地域コミュニティ統括部長は、昨春にJリーグ側から提案を受け、すぐに動いた。オリヒメを開発した地元のオリィ研究所(東京都三鷹市)、病院と話し合いを重ねた。同じホームタウンで活動する人たちが手を携え、試みは実現した。

 オリィ研究所の吉藤健太朗所長はかつて体調を崩し不登校になった経験がある。孤独感と疎外感に苦しんだといい、「心を運ぶ」をテーマにオリヒメを開発した。「試合を見ることが本当の目的ではない。道中の会話や何げないコミュニケーションがいずれ思い出になる」。兄弟に「喜んでもらえて、うれしかった。兄弟と会場が一体化している感じがした」と振り返る。

 スタジアムのバリアフリー化では決して越えられない壁もある。これまで病気や障がいなどでスポーツ観戦を諦めていた人たちにオリヒメが一筋の光を照らす。テレビ中継とは全く違うライブ感覚。生観戦ではないが、大切な家族や友人らと臨場感を共有できる。

 久保田部長は「環境整備などハードルもあるので、実用的な仕組みづくりをしないといけない」と話す一方で「次は選手がオリヒメを持って入場するのもいいかな」。サッカー観戦に限らず、近所の散歩から、ひいては海外旅行にも活用できるオリヒメ。FC東京は地域の人たちとともにサッカーを通して、社会に新たなユニバーサルデザインの可能性を提案する。 (磯谷佳宏)

 

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