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【社会】

全員ひきこもり それが強み 都内のIT企業好評

打ち合わせをする「ウチらめっちゃ細かいんで」の平野立樹さん(左)と佐藤啓社長=東京都内で

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 全従業員が「ひきこもり」という共通点を持つIT企業が東京都内にある。社名は「ウチらめっちゃ細かいんで」。ひきこもりの人たちに多い繊細さや感受性の高さを生かし、きめ細かいサービスを売りにする。「負」のイメージを「強み」に変える手応えをつかんでいる。 (石川修巳)

 「ウチらめっちゃ細かいんで」は、本社を千代田区に置いているが、十一人の社員・アルバイト全員が在宅勤務。業務連絡はすべてインターネットでやりとりする。

 「これなら、ひきこもりながら仕事ができる」と説明するのは佐藤啓社長。「ひきこもりの当事者は真面目で細かく、能力が高い人も多い。なのに活躍できていないのは、企業の働き方の問題だと理解した」と語る。

 設立は昨年十二月で、業務内容はホームページ制作やアプリ開発など。現在は仕事の受注にスタッフの態勢が追い付かないほどだ。「細かいところまで気を使ってもらえる」「次も依頼したい」などの声が寄せられているという。

 社員の一人、平野立樹(たつき)さん(34)は通算十年近くのひきこもり経験を持つ。高校一年の時、母親をがんで亡くした。大学受験へのプレッシャーも重なったのか、通学途中に突然吐き気がして通えなくなり、高校を中退。次の専門学校も半年で辞め、大学入学資格検定(当時)に合格して進んだ大学も一年半で中退した。

 その後、好きな時間に自宅で受講できる通信制大学を卒業。ひきこもりからの出口を求めて自助グループにも参加したが、今度は「その居場所にひきこもってしまった」。一歩踏み出そうとしては逆戻りの繰り返しだった。

 転機は昨年四月。都内であった当事者らの対話イベントで、同じテーブルにいた佐藤社長がIT、在宅勤務、ひきこもりという三つのキーワードに秘められた可能性を語った。社長のいとこもひきこもりだった。

 「チャンスかも」。直感し、その夜、佐藤社長に電子メールを送った。「何かお手伝いできることはないですか?」

 会社設立前から社長を支えるスタッフとなった平野さん。現在はIT業界の人材不足に着目し、ひきこもり当事者が自宅でプログラミングを学べる講座など教育事業のリーダーを任されている。「今も続けられているのが、自分でも信じられない」と、この一年間を振り返った。

 平野さんは今、ひきこもりの当事者ですか、それとも経験者ですか−。記者が尋ねると「経験者…かな」と、ためらいがちな答えが返ってきた。

◆15〜39歳 全国で54万人 当事者・親の高齢化問題も

 内閣府の推計によると、ひきこもりの状態にある十五〜三十九歳は、二〇一五年時点で全国に約五十四万人。若者特有の問題とされてきたが、ひきこもりの長期化に伴って当事者も親も高齢となり、孤立や困窮するケースも。「八十代の親と五十代の子」を意味する「8050問題」として顕在化し始めている。

 ひきこもりは「仕事や学校に行かず、かつ家族以外とほとんど交流せずに、六カ月以上続けて自宅にいる状態」とされる。

 孤立した当事者たちの声をくみ取りたいと、全国各地の自助グループが連携して旗揚げしたのが「Node(ノード)」。団体名は英語で「結び目」を意味し、四月に東京都からNPO法人の認証を受けた。相談や支援策などの情報を集約したポータルサイト「ひきペディア」を今月七日に開設。副代表理事の林恭子さんは「偏見や差別による生きづらさを分かち合って、支援や働く場などのつなぎ目になる活動を進めたい」と話す。

 今月十九日には東京都千代田区で、「働く」をテーマにした設立記念イベントを開く。

 

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