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【社会】

埼玉・八潮の町工場バーベル 東京五輪狙う 誤差3グラム以下の技、情熱は重量級

バーベルのわずかなゆがみを確認する長谷川さん=埼玉県八潮市で(西川正志撮影)

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 埼玉県八潮市の小さな町工場が五輪競技の重量挙げで使用するバーベルを製作している。社員はわずか三人。重さや長さなど細かい基準がある競技用バーベルを国内で唯一製造しており、これまで何度も五輪で採用された。トップ選手も評価するこだわりがつまったバーベルで、三代目の長谷川健悟さん(46)は二〇二〇年東京五輪での採用を目指す。 (西川正志)

 真っすぐに見える鋼の棒。水平な場所に置くとわずかに転がる。ミリ単位のゆがみがあるからだ。

 長谷川さんはゆがみにめがけて、重さ五キロのハンマーを振り下ろす。「カキーン、カキーン」。たたく場所、力加減はすべて勘。何度もたたき、矯正していく。「少しでもゆがみがあれば、選手が持ち上げた時にバランスを崩しかねない」。二十回以上の微調整を繰り返し、ゆがみを〇・一ミリ以下に抑えると、棒は転がることなく、ぴたりと止まった。

 重さにもこだわる。国際重量挙げ連盟(IWF)の規定で、ウエート(重り)を外したバーの重量は男子は二十キロ。上限二十グラム、下限十グラムまでの誤差が許されるが長谷川さんは上限三グラム、下限はぴったり二十キロと決めている。

 バーは選手がつかむシャフト以外に、重りを取り付ける部分など十二個の部品で構成。部品は工場で鋼の塊から削り出す。削る量で重さを調整、限りなく誤差ゼロを目指す。選手に「バーが重かったから挙がらなかった」と思わせたくないからだ。

 工場は戦後すぐに長谷川さんの祖父が東京都内で創業。当初はさまざまな金属加工を手がけた。その後、IWFの公認メーカー「ウエサカティー・イー」(東京都墨田区)の下請けとしてバーベル作りを一手に担ってきた。「黒子」に徹しており、積極的には社名を表に出していない。

長谷川さんが作ったバーベルについて「最高の品質で本当に信頼できる」と話す三宅選手=東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで(安江実撮影)

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 五輪で使用するバーベルは、IWFが世界中のメーカーから決めた一〜二社のものが使われている。今年中に東京五輪で採用されるメーカーが決まる予定だ。

 ウエサカのバーベルは三宅義信さんが金メダルを獲得した一九六四年の東京五輪を皮切りに、ソウル、バルセロナ、アトランタ、シドニー、アテネの各五輪で採用されてきた。

◆三宅選手、練習で使用

 義信さんのめいで、ロンドン、リオと連続でメダルを獲得した三宅宏実選手も普段の練習で使用している。東京五輪に向けて本格始動した宏実選手は「(バーに取り付ける)ウエートがぐらつかないし、すべり止めも手になじむ」と厚い信頼を寄せる。「東京五輪までの二年。このバーベルと一緒に、理想のフォームを完成させたい」と日々、汗を流す。

 「五輪に採用されればうれしい。選手に負けないように良いものを作りたい」と長谷川さん。「選手たちが少しでも良い記録を出せるように」と願いながら、培った勘を頼りにバーベルと向き合い、ハンマーを振り続けている。

 

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