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【社会】

ヘイト抑止 理念法の限界 対策法施行2年 

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 外国人への差別的言動の解消を図るヘイトスピーチ対策法は、来月三日に施行から二年を迎える。国は施行当初こそ啓発活動に力を入れたものの、ここ一年の動きは鈍い。公的施設の利用制限などをする自治体もあるが、排外主義的なデモは止まらず、インターネット上の差別扇動も野放し状態だ。罰則のない理念法の限界があらわになっている。 (佐藤圭)

■狙い撃ち

 今月二十日、排外主義グループが「日韓断交国民大行進」と銘打ち、東京・新宿駅周辺で行ったデモ。約五十人の参加者の一部は「韓国人は敵だ」「在日は犯罪の温床、韓国に帰れ」などと連呼した。

 主催者の男性会社員(19)は「対策法の影響は特にない。差別をしていると批判されるが、日本を守りたいという思いで活動している」と話す。

 警察庁によると、「右派系市民グループ」によるデモは、昨年七月〜今年四月末に三十八件を確認。前年同期の四十件と同水準だった。ヘイトスピーチ問題に詳しい師岡康子弁護士は「当初はヘイトデモ参加者も警戒していたが、理念法の限界が明らかになってしまい、差別扇動が増加している」と嘆く。

 ネット上の状況も同じ。一橋大大学院生で在日コリアン三世の梁英聖(リャンヨンソン)さん(35)は「差別の実態はほとんど変わっていない。むしろ悪化している」と断じる。

 差別的言動を監視する市民団体「反レイシズム情報センター」代表の梁さんはツイッター上で、「朝鮮人は帰れ」などと陰湿な攻撃にさらされてきた。「外国人全般を差別するのではなく、声を上げる人が狙い撃ちにされている。差別と暴力によって社会を破壊しようとする極右型といえる」と危機感を募らせる。

■試行錯誤

 法務省は、サイト運営会社に差別的な投稿の削除を要請したこともあるが、強制力はない。同省は施行一年目に、地方自治体と情報交換会を開き、外国人住民調査を実施。ところが二年目は、これといった施策を打ち出していない。

 自治体も、試行錯誤が続く。大阪市は二〇一六年、全国初のヘイトスピーチ抑止条例をつくった。ヘイト発信者の氏名公表が目玉だったが、特定は難航。

 川崎市は今年三月末、市の施設でヘイトスピーチが行われる恐れがある場合、事前に利用を制限できるガイドラインを施行したものの、ヘイトデモの常連参加者の利用申請を容認する構えを見せている。

 対策法は、憲法が保障する表現の自由を侵害する恐れがあるとして、罰則がない。さらに、保護対象を、適法に居住する外国人に限定し、アイヌ民族など国内のマイノリティーや非正規滞在の外国人を除外している。国連の人権機関は日本政府に、ヘイトスピーチにとどまらず、不動産の賃貸や就業、教育などあらゆる分野での差別を禁じる法律の制定を勧告してきた。

 師岡弁護士は「包括的な人種差別禁止法の制定が急務だが、国会の動きは鈍い」と指摘。その上で「自治体が禁止条項や制裁を盛り込んだ条例を制定し、実効性を高める必要がある。法施行二年を機に、差別解消に向けた機運が高まってほしい」と話す。

<ヘイトスピーチ対策法> 国外出身者とその子孫への差別を助長する著しい侮辱などを「不当な差別的言動」と定義し、「許されない」と宣言。禁止規定や罰則はなく、国や自治体に相談体制の整備や啓発活動の充実を求める。2016年5月24日に成立し、同6月3日に施行された。法務省は「○○人は殺せ」「祖国へ帰れ」などの文言や、人をゴキブリなどに例える言動をヘイトスピーチの具体例として提示している。

 

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