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【社会】

司法取引、冤罪リスク 協力見返りに処分軽減

 日本版司法取引の運用が六月一日から始まる。他人の犯罪を供述することで、自らの罪の起訴見送りや軽い求刑など見返りを得られる制度だ。捜査機関にとっては事件の真相解明に強力な武器となる一方、無実の人を巻き込む冤罪(えんざい)の危険性をはらむ。 (岡本太)

 ■ 警戒感

 突然逮捕され、連日の取り調べ。このままでは起訴され、有罪になる。そんな時「主犯の存在を明らかにすれば、不起訴にできる」と言われたら…。

 「目の前の苦しさから逃れたい、楽になりたいと、他人を巻き込む虚偽供述をする可能性は十分ある」

 制度の運用開始を直前に控えた今月二十一日、日弁連で会員向けに制度を解説している鈴木一郎弁護士は語気を強めた。

 日本では初の試みとなる司法取引は、弁護士にとっても未知の領域。翌二十二日には日弁連で実務研修が行われ、全国の弁護士会にライブ中継された。

 「司法取引は、『仲間を売る』ことで成立する。裏切らせようと検察はいろいろと仕掛けてくるだろう」。参加した弁護士の一人は、警戒感をあらわにした。

 ■ 先取り

 鈴木弁護士が「司法取引の先取り、テストケースだった」と指摘する事件がある。東京地検特捜部と公正取引委員会が今年三月に立件したリニア中央新幹線工事を巡る入札談合事件だ。

 事件の焦点はゼネコン四社による事前の会合が、受注調整に該当するのかどうか。立件には「自供」が不可欠だった。特捜部は否認を貫いた二社の担当者を起訴。一方で容疑を認め捜査に協力した二社の担当者は起訴を見送った。検察は「犯行の役割などを総合的に考慮した」と説明するが、供述の内容によって処分に大きく差をつける捜査手法は、検察のストーリーに沿った虚偽の自白を招きかねないと批判が上がった。

 ■ 信用性

 司法取引が導入されると、リニア談合と同じような捜査手法が制度的に認められることになる。容疑者が司法取引を条件に黒幕の存在を明かすことや、検察が「起訴の見送り」を約束して共犯者に関する供述を求める例などが想定される。

 ただ元裁判官の森炎(もりほのお)弁護士は「不起訴などを約束して得た供述をどこまで信用できるのか、見極めは難しい」と指摘する。取引の協議は録音録画(可視化)の対象外で、後から供述の経緯を検証するのは困難だ。

 協議には弁護人の関与が義務付けられているが、参加するのは他人の犯罪を供述する容疑者か被告の弁護人だけで、犯罪を告発される側の弁護人は加わらない。虚偽供述に科せられる懲役五年以下の罰則についても、抑止効果にならないとの指摘は根強い。

 森弁護士は「犯行の指示や共謀は、今までも証拠関係が十分でないのに、認定されるケースがあった。司法取引の供述が加わると一層不安定になり、冤罪のリスクが高まる」と話す。

◆日本版司法取引はニセ電話詐欺も対象

 6月1日施行の改正刑事訴訟法で導入される日本版司法取引では、容疑者や被告が他人の犯罪について重要な情報や証拠を持っている場合、軽い刑事処分とすることを条件に、検察官か検察官が認めた警察官と取引することが可能になる。検察官らから取引を持ち掛けることもある。

 まずは協議が行われ、検察官らは起訴の見送りや取り消し、軽い求刑などの見返りを提示。容疑者や被告は、この段階で、情報や証拠の中身を明かすことを求められる。両者で合意すれば取引は成立。処分を軽くしてもらうため、うその供述をすると、懲役5年以下の罰則が科せられる。

 対象となるのは主に贈収賄や脱税、横領、談合などの財政経済犯罪、ニセ電話詐欺や薬物・銃器犯罪など。殺人や傷害、性犯罪などは対象外となる。米国や英国では、本人が自分の罪について認めるだけでも刑が軽減されるが、日本版では認められない。

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