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【社会】

太宰ゆかり 文壇バー「完」 小説のモデル女性経営半世紀 新宿の「風紋」あさって閉店

57年間「風紋」を営み、カウンター越しで接客する林聖子さん=東京都新宿区新宿5のバー「風紋」で、増井のぞみ撮影

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 無頼派作家の太宰治と交流があった林聖子さん(90)が東京・新宿で営むバー「風紋(ふうもん)」が二十八日、五十七年の歴史に幕を下ろす。太宰が入水自殺してから七十年の節目に、檀一雄や中上健次ら多くの作家に愛された文壇バーの灯が消えることを、常連客らは惜しんでいる。 (増井のぞみ)

 「とても優しくてサービス精神旺盛な人でした」。林さんは十九日、店を訪れた客と、太宰の話題で盛り上がった。太宰の遺体が見つかった一九四八年六月十九日は太宰の誕生日でもあり、後に「桜桃忌」と呼ばれるようになった。林さんは例年、東京都三鷹市の墓を訪れていたが、今年は体力的に厳しく、見送った。

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 林さんは、母親の富子さんが働いていた新宿のカフェに太宰が客として訪れたことが縁で、戦前から親交があった。戦中に疎開でしばらく疎遠になったが、戦後の四六年十一月、三鷹駅前で偶然再会し、「大きくなったね。わからなかった」と声を掛けられた。当時、太宰が三十七歳、林さんは十八歳だった。

 この場面は、太宰の小説「メリイクリスマス」に描かれている。富子さんは主人公のかつての女友達、林さんは女友達の娘として登場。「小説の前半は描写や会話が実際のやりとりとそっくり」という。太宰の紹介で出版社に就職し、原稿を自宅に受け取りに行ったことも。「リンゴ箱を書棚にしていた。ひょうきんなことを言って、うなぎをごちそうしてくれたこともあった」

 その後、職を転々として六一年に「食べるために風紋を始めた」という。店には太宰の師の井伏鱒二ら有名作家や編集者が次々と訪れた。常連客にも恵まれたが、近年は足が悪くなり、長く立っているのはつらくなった。今年三月、九十歳を迎えたことで「そろそろ限界」と引退を決めた。

 二十二日に店で「風紋終幕の会」が開かれ、常連客が集まった。二十代のころから通う井本元義さん(74)は「林さんは静かに客の話を聞いてくれる。詩情や歴史、知性がある」。作家森まゆみさん(63)も「ピュアな人柄で、いつ来ても居心地がよかった」。口々に店との別れを惜しんだ。

28日に閉店するバーの看板=東京都新宿区新宿5のバー「風紋」で、増井のぞみ撮影

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