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【社会】

強制中絶・不妊 夫婦ら提訴 国に賠償求める

旧優生保護法下で中絶や不妊手術を受けたとする北海道の女性が寄せた手記=28日

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 旧優生保護法(一九四八〜九六年)下で不妊手術をされたのは自己決定権などを保障する憲法に違反し、その後の救済措置を怠ったとして、北海道の夫婦と熊本県の渡辺数美さん(73)が二十八日、国に損害賠償を求める訴訟を札幌、熊本各地裁に起こした。夫婦は中絶も理由にしており、旧法を巡る訴訟では全国初で、当事者の家族が原告になるのも初めて。渡辺さんは西日本では初提訴。 

 一月に仙台、五月に札幌、仙台、東京の各地裁に起こされた訴訟を含め、原告は計七人に拡大。

 訴状などによると、北海道の女性(75)は中度の知的障害がある。七七年に結婚、八一年に妊娠したが、入浴中に親族に気付かれ、中絶を説得された。夫(81)も周囲に逆らえず、中絶と不妊手術の同意書に署名。女性は同年六月、滝川市の病院で手術を受けた。

 「待ち望んでいた子どもの出生の機会を奪われた。手術で二度と妊娠できない体になり、子どもを産むか、産まないかを選択する権利も奪われた」と主張。国が救済に向けた政策遂行や立法措置を取らなかったのは違法などとしている。夫婦はそれぞれ三千三百万円の損害額のうち、千百万円を請求。道庁や病院で手術の記録は確認されていない。

 渡辺さんは幼少時に変形性関節症を患い、小学生の時に同意がないまま睾丸(こうがん)の摘出手術を受けさせられた。思春期になり他の同級生との違いに気付き、親に尋ねた際に手術を知った。請求額は三千三百万円。カルテなどの記録は残っていないとみられる。渡辺さんの弁護団は二十八日、提訴後の記者会見で「手術は人権を奪って一生を台無しにする行為だ」と語った。

 熊本では他にも、二十代の頃に中絶と不妊手術を受けた七十代女性が提訴を検討。聴覚障害のある神戸市の夫婦と福岡市の女性は六月、国賠訴訟を起こす考えを表明した。今回の提訴について、厚生労働省母子保健課は「訴状が届いていないので、コメントは差し控える」としている。

◆夫婦が手記公表「授かった子、育てたかった」

 旧優生保護法下で中絶や不妊手術を受けさせられたとして国に損害賠償を求めた北海道の女性(75)と夫(81)が二十八日、提訴に合わせてそれぞれ手記を公表した。夫は「天から授かった子」を奪われた悲しみを裁判で問いたいと強調。女性も「二人で一緒に育てたかった。今でも悲しい、悔しい」と思いをつづった。

 二人の手記によると、諦めかけた頃に初めての子どもを授かり、誕生を心待ちにしていた。しかし、妊娠に気付いた親族は「あなたは子どもを産むことも育てることもできない」「私たちが面倒をみることになるから大変」と、中絶するよう説得した。夫は不安になり、親族の指示通りに同意書に署名。「自らも加害者になるのか」。思いは揺れ、三十七年たった今でも「毎日を妻にわびる心情で過ごし、後悔している」という。

 女性は夫が不在の間に、親族に無理やり病院へ連れて行かれ、説明がないまま手術を受けた。女性は「男でも女でも産みたかった」と、親族や医師を批判。夫は「手術を勧める親族の後ろ盾に優生保護法が存在していた」と、旧法の影響力を指摘した。

 

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