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【社会】

<地域のチカラ>岩手・遠野地方 ソトモノとジモトの輪

猿ケ石川のカッパ淵で行われたフィールドワーク「おもしろTONO学」=岩手県遠野市で

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 岩手県遠野市で、地域に伝わる民話を集めた日本民俗学の名著「遠野物語」を活用した地域おこしが人気を集めている。物語に出てくるカッパの棲(す)む川やてんぐがいた場所などを訪ね、遠野の不思議な魅力を発信する。地域の資源に目を向けた若い移住者らが地元の研究者に学んで企画した。「ソトモノとジモト」がつながり、地域の宝が輝きを増している。 (山本哲正)

◆カッパの棲む町

 東北新幹線・新花巻駅からJR釜石線で東へ約一時間。遠野市附馬牛(つきもうし)町の猿ケ石川の岸辺に外国人を含む三十人ほどが集まった。遠野物語や遠野の文化を現地を訪ね歩きながら学ぶフィールドワーク「おもしろTONO学2018」だ。

 テーマはカッパ。川はカッパの棲む川として物語に登場する。「カッパは自分をこらしめようとした村人に、『俺を放さなかったら全員おぼれさせる』と脅した」。市文化課学芸員の熊谷航(わたる)さん(38)が話すと参加者は耳をそばだてた。

 東野智希ちゃん(5つ)は「カッパに会いたい。でも、いたら怖い」と母親の手をギュッと握った。主婦、阿部和美さん(47)は「観光だけでなく、遠野物語を学ぼうというのが新しい。遠野の住民として知識を広めたい」と楽しげだった。

◆現代まで続く物語

 フィールドワークを企画したのは新潟県長岡市出身の富川岳さん(31)。大学卒業後、東京の広告会社で働いていたが、地域貢献のために起業したい夢があり、二年前、地域おこし協力隊員に応募して移住した。

 富川さんは映像や本を編集して遠野の食や自然をPRする傍ら、遠野物語を生かした新しい企画ができないか考えた。そんな時、資金難で四年前に閉じたNPO法人「遠野物語研究所」元副所長の大橋進さん(74)に出会った。

 「大橋先生はニコニコしながら物語の背景や読み解き方を教えてくれた」と富川さん。毎月訪ね、物語に出てくる場所を一緒に歩いて学んだ。「遠野物語の独自性は固有名詞や場所が特定されていること」と富川さん。「山男やてんぐを見た場所も、座敷童子(わらし)がいた家も特定されていて面白い。登場人物の子孫が今も同じ場所で生きていたりして、物語が現代まで続いているのも面白い」

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◆まず知ることから

 富川さんは仲間と地域団体「to know(トゥーノウ)」を立ち上げ、昨年十月から毎月フィールドワークを開催。参加者は東京なども含めて約二百人に達した。団体名には「遠野を知る、地域を知る」という意味を込めた。イタリア人女性の移住者もスタッフに加わり、海外の芸術家を招き、地域の資源の生かし方を考えてもらう企画も進行中だ。

 「とおの物語の館」の来館者数は昨年度約二万三千人で、二年前から五千人減った。それだけに富川さんらの活動に期待が集まる。

 「よそから来て地元の青年を巻き込み、遠野の魅力を一から見直している」と大橋さん。遠野出身でトゥーノウに加わった多田栄治さん(31)は「遠野には面白いことがいっぱい隠れていると分かってきた」と地域再生に自信を見せる。

 遠野の未来を思い描いて富川さんは言う。「遠野の豊かな文化を地域の人と継承しながら、観光や教育、地域のなりわいづくりにも展開していきたい」

<遠野物語> 座敷童子や妖怪、神、臨死体験、習わし、動物との共存など、遠野地方で語り継がれてきた民話を民俗学者の柳田国男が聞き書きし、1910(明治43)年に発表した。日本の民俗学の先駆けとして評価され、多くの出版社から出版されている。

 

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