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【社会】

<オウム事件死刑執行 妄想の果てに> (下)啓発続け風化させぬ

慰霊碑の前で、事件の風化を懸念する竹内精一さん=山梨県旧上九一色村(現富士河口湖町)のサティアン跡地で

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 「個人の意思や幸福は棚上げされ、絶対的な服従を求められる」

 六月上旬、慶応大三田キャンパス(東京)の教室で、非常勤講師として教壇に立つ立正大の西田公昭教授(社会心理学)が、オウム真理教やカルト教団の特徴を熱弁した。聴講生約百人の大半は、一九九五年三月の地下鉄サリン事件後に生まれた世代。講義の後、「オウムは名前しか知らなかったが、こんな事件を起こしていたなんて」などと口々に感想を話した。

 西田教授は、オウム真理教の元幹部らと面会を重ね、マインドコントロールで若者が犯罪行為に加担するようになる過程などを研究。全国の大学などで年間二百コマ以上の講義を開き、若者の心の隙(すき)を突くカルトの恐ろしさを訴えてきた。「入信した人を脱会させるのは困難を極める。入り口をふさぐ予防的な教育が大切だ」

 一連のオウム真理教事件から四半世紀。インターネットの発達で情報があふれ、価値観や生き方は多様化している。経済的な豊かさだけが必ずしも幸せの形とは言えない時代を迎えた。西田教授は「『道しるべのない時代』。若者の将来に対するばくぜんとした不安や生きづらさは、オウム事件のころと比べて増している」と危惧する。

 かつての教団施設「サティアン」が立ち並んだ山梨県旧上九一色村(現富士河口湖町)。跡地の公園の一角に、「慰霊碑」と刻まれた高さ約一メートルの石碑が立つ。被害者らを追悼するために村が建てたが、慰霊碑に「オウム」の文字はない。

 旧上九一色村で反対運動を展開した元オウム真理教対策委員会副委員長の竹内精一さん(90)は「『オウム』の名前を刻めば、将来の戒めになると主張したが聞き入れられなかった。もう忘れたいという住民の思いをくんだ結果だ」と理由を話す。

 オウム真理教の後継団体「アレフ」などの施設がある東京都や札幌市などの都市では、周辺住民らの高齢化や事件への関心の低下が問題となっている。公安調査庁に施設の監視を求める住民署名も年々減少。住民から「もう抗議活動は限界」との声も上がる。

 教団元代表麻原彰晃元死刑囚ら七人に刑が執行された六日、地下鉄サリン事件で駅員の夫を亡くした高橋シズヱさん(71)は会見で「遺族の中では風化はあり得ないが、人々が思い出すことが少なくなることは仕方がないと思う」と、風化という現実に向き合った後、続けた。「犠牲になった、人生を狂わされた者としては、繰り返されたらいけないという思いがある。それが啓発や対策に生かされていけば、私は風化はしないと思う」(この連載は、山田祐一郎、奥村圭吾、岡本太、山田雄之が担当しました)

 

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