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【社会】

ごう音土砂「お母さん」 岡山 家押し流され女性死亡

土砂で住宅が押し流され、藤井さん親子が巻き込まれた岡山県井原市の現場=7日

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 水が引くと、泥にまみれた無残な町の姿が現れた。九日にかけ西日本豪雨の被災各地で惨状が徐々に明らかに。犠牲者は百人を超えた。未曽有の長雨から一転、強い日差しが照り付ける厳しい暑さ。生存率が下がるとされる七十二時間が迫り、救助は一刻を争った。捜索活動は大量の土砂や水に阻まれ難航し、被害の全貌はいまだ見えない。

 「お母さんがおらん」「戻るな」−。豪雨が猛威を振るった六日深夜、岡山県井原市西江原町で住宅が土砂に押し流され、この家に住む藤井敦子さん(48)と二十代の長男と次男が巻き込まれた。弟は自力で脱出したものの、兄が冷蔵庫の下敷きになり救助活動は緊迫。藤井さんが亡くなり、近隣住民は「あんなに善い人がなぜ」と口をそろえた。

 「ドーン、ゴゴゴゴ」。近所の時松康隆さん(43)は午後十時半ごろ、地鳴りのようなごう音に気付いた。川の両岸に住宅が点在する集落。裏山が崩れ、土砂が藤井さん宅になだれ込んだ。

 駆け付けた時松さんが目にしたのは冷蔵庫の下敷きになって動けない長男。目が合った。「救急車を呼んでください!」。差し迫った状況に「なんとしても助けなければ」と急いで一一九番した。

 自力で脱出していた次男は「お母さんがおらん!」。倒壊した家に戻ろうとしたところ、消防士の長男は埋もれたまま「二次災害が起きるから戻るな」と呼び止めた。「お母さんを信じよう」。兄弟で励まし合った。

 時松さんは、雨に混じって長男の顔へ流れ込んでくる泥を拭い続け、次男と「お母さん」「藤井さん」と必死に呼び続けた。到着した救急隊員がチェーンソーで冷蔵庫を切断し、長男を救出。だが、藤井さんは翌七日に土砂の中から見つかり、帰らぬ人となった。

 大阪府出身の藤井さんは約二十年前、夫の地元の井原市に移り住んだ。「明るくて面倒見のいいリーダー」と地域で親しまれた。現場を訪れた藤井さんの父山村哲也さん(81)は「兄弟は軽いけがだけで助かった。子ども思いのあの子が守ったんだと思う。みんなに愛され、幸せだったに違いない」と押しつぶされた家を見つめた。

 

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