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【社会】

土砂が奪った笑顔 結婚3週間 家族と突然の別れ

土砂崩れに巻き込まれ、捜索活動が続く妻奈々さんの家近くにたどり着いた角森康治さん=8日、広島県熊野町で

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 西日本豪雨の土砂災害や河川氾濫の現場では生存率が下がる「発生後72時間」が過ぎた。懸命の捜索の中で、さらに明らかになる人的被害。無事を願っていた家族は、いとしい人との突然の別れに涙した。

 「なぜあの時、逃げろと言わなかったのか」。約三週間前に結婚したばかりの会社員角森康治(つのもりこうじ)さん(54)は、広島県熊野町川角五の土砂とがれきの山の前で崩れ落ちた。そこには妻奈々さん(44)の自宅があった。捜索で奈々さんの遺体は見つかったが、義理の息子二人と義母の安否は分かっていない。

 奈々さんと出会ったのは今年一月。知り合いからの紹介だった。二人とも離婚を経験していて「結婚はないよね」と話していたが次第に引かれ合い、六月に結ばれた。奈々さんの長男美憲(みのり)さん(13)と次男健太ちゃん(2つ)、母の青木裕子さん(71)との五人家族となったが、まだ同居はしていなかった。

 島根県安来市で暮らす角森さん。土砂災害が発生した六日、奈々さんと週末を一緒に過ごすため、車で熊野町の家に向かっていた。

 夜になって雨脚が強くなり、奈々さんから無料通信アプリLINE(ライン)で「家の前の水路もあふれてる」とメッセージが届いた。角森さんは「心配しないでいいから寝てていいよ」と返信したが、避難するように促すことはなかった。連絡は途絶えた。

 豪雨被害で寸断された道路を回り道しながら、家の近くまでたどり着いたのは七日朝になってから。裏山が崩落し、川角五の住宅地では十二人が安否不明になった。そのうちの四人が新しい家族だった。

 木造二階建ての家は土砂で壊れており、自衛隊員らによる捜索活動を見守っていると、八日昼すぎごろ、一人の遺体が見つかった。耳たぶには、見覚えのあるふさがりかかったピアスの痕が。「子どもが引っ張るからピアスはしない」。そう話していた奈々さん。ブルーシートに包まれた遺体に向かって、叫ぶように名前を呼んだ。

 「なぜ逃げるように言わなかったのか」。悔いばかりが残る。

 家の近くで、健太ちゃんにプレゼントしたアンパンマンの縫いぐるみを見つけた。「健太は奈々の近くにいるはず。きっと手を握っていたに違いない」。十日も早朝から消防や警察、自衛隊が捜索に当たり、重機も使いながら土砂をかき分ける作業が続いた。角森さんは、残る家族が早く見つかるよう祈っている。

 

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