東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 7月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

戦中に命惜しむ武士描く 山本周五郎の未発表作発見

写真

 武士の苦衷や庶民の哀歓を描いた歴史小説作家、山本周五郎(写真、一九〇三〜六七年)が、戦時中に書いた未発表短編が見つかった。タイトルは「死處(ししょ)」で、命を惜しむことの大切さを武士が説く内容。識者は国民の命を顧みない風潮が強まる戦時下での、山本の違和感を示す一作だと指摘。十三日刊行の講談社文庫「戦国武士道物語 死處」に収録される。

 講談社によると、山本の名前の入った二百字詰め原稿用紙四十枚に書かれ、昭和十六(一九四一)年十月二十五日と記されていた。当時の人気雑誌「冨士」の翌年新年号に掲載予定だったが、同誌が紙不足で休刊し、発表の機会を失したとみられる。当時の慣例で原稿は返却されず、そのまま同社に保管されていたのを昨年、山本の企画展が開かれた際、同社が資料を精査する中で見つかった。

 同作の主人公は徳川家康の家臣。武田信玄との戦いに際して城を守ることを進んで引き受け、反発する息子の功名心をいさめるが、最後は主君のために命を落とす。山本はこの半年後に、類似した設定の「城を守る者」を別誌に発表している。

 文芸評論家の末國善己(すえくによしみ)さんは「命を守ることを重視する思想は、最後まで主人公が死なない『城を守る者』により明確に出ている」と分析。「『死處』にはまだ戦時的な要素もみられるが、十二月の日米開戦を挟み、思想が深まったのではないか。日記に日常的な記録しか書かなかった山本周五郎の思想の変遷をたどることができる、貴重な発見と言えるだろう」と話している。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報