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【社会】

初の司法取引、企業免責 賄賂数千万円 社員追及へ

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 捜査機関に犯罪情報を提供する見返りに自らの刑事処分を軽減させる「司法取引」(協議・合意制度)が初適用されたタイの発電所建設事業を巡る贈賄疑惑で、受注した大手発電機器メーカー「三菱日立パワーシステムズ」(MHPS、横浜市)から現地の公務員に渡った賄賂は数千万円規模だったことが、関係者への取材で分かった。

 特捜部は、贈賄行為に関与した社員の刑事責任追及に向け、多額の賄賂が渡った経緯や、企業内の指揮系統の解明などを進めるとみられる。法人としての企業の責任は問わない方針。

 関係者によると、贈賄行為が疑われているのは、タイ南部の発電所建設事業。タイの民間の発電事業者から受注し、建設とメンテナンス契約を締結した。三菱重工業と日立製作所の事業部門が統合しMHPSが設立される前年の二〇一三年、三菱重工が受注した。

 MHPSは、不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)に抵触する可能性があるとして、特捜部に申告。既に合意文書に署名したとみられる。

 同法に違反した場合、個人だけでなく、両罰規定により、法人にも三億円以下の罰金が科される。

 民間信用調査会社やMHPSのホームページによると、従業員数は約一万人。米国や英国、シンガポールなどに地域統括拠点を、インドやブラジルなどに製造拠点をそれぞれ置く。昨年三月期の売上高は七千五百九十八億九千六百万円。

◆組織の「しっぽ切り」懸念理念と逆

 司法取引制度は当初、指示命令系統を解明するのが難しい組織犯罪や、経済事件でトップを追及する際に使われることが想定されていた。今回は法人としての企業が自らの刑事責任を免れるため、社員の不正を申告するという逆のケースになった。ただ、企業が自らの利益を守るため、不正に関与した社員の捜査に協力して司法取引を取り付けるようになるとの指摘は、制度の導入前からあった。

 外国公務員への贈賄事件で、法人としての企業が起訴され有罪判決を受ければ、国内外での信用失墜に加え、国際的な大型事業に参加できなくなる可能性がある。制裁金を科すなど、贈賄企業への厳しい対応は国際社会の潮流だ。株主代表訴訟のリスクもある。

 一方、特捜部にしても、海外を舞台にした贈収賄事件は証拠収集が難しく、企業の情報提供は好都合だった可能性がある。

 しかし、社員個人だけを追及し、組織の犯罪を見逃しているような印象はぬぐえない。企業が責任を回避するため、実際よりも過大な責任を社員に負わせることになれば、真相解明につながらない。組織犯罪を解明する理念から導入された司法取引が「トカゲのしっぽ切り」に使われるように映れば、国民の理解は得られにくくなるだろう。 (寺岡秀樹)

<協議・合意制度> 容疑者や被告が供述や証拠の提出により共犯者ら他人の犯罪の捜査・公判に協力する見返りに、自分の起訴を見送ってもらったり求刑を軽くしてもらったりする制度。司法取引の一つのパターン。今年6月に改正刑事訴訟法施行で導入された。対象は贈収賄や独禁法違反などの財政経済犯罪、薬物・銃器事件などに限定される。取引には容疑者らの弁護士が関与し、検察との合意書面に署名する。法人が処罰対象となるケースでは企業も取引できる。

 

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