東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 7月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

<揺れる思い 「やまゆり園」事件から2年> (下)決断 焦る必要はない

津久井やまゆり園の仮移転先近くの公園まで散歩しベンチで妹と寄り添い合う相模原市南区の男性(右)=横浜市港南区で

写真

 「人里から隔離されていて閉鎖的」。相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」の事件を受け、神奈川県が現地での建て替えを議論した際、福祉関係者から「大規模施設は時代錯誤」と批判を浴びた。

 「事件で平穏な生活が乱された。元の生活に戻してほしいだけなのに」。家族会の大月和真会長(68)はそう訴える。自閉症で言葉が話せない長男寛也(ひろや)さん(37)は、十八歳の時にやまゆり園に入所。気ままに本を読んだり、テレビを見たりしていた。「新しい生活に移行させることで、落ち着きを失わせたくないんです」

 現地と、横浜市港南区の仮移転先近くに建設する新施設で暮らすか、グループホーム(GH)に移るか、県は入所者らの意思確認を進め、来秋までに居住先を決めてもらいたい考え。「小規模施設で地域に溶け込んで暮らすのが今の流れ」(福祉関係者)との声がある中で、大月さんは「たんの吸引や胃ろうなどの医療ケアが欠かせない。施設の方が安心と考える入所者家族は多い」と語る。

 事件で妹(47)が重傷を負った相模原市南区の男性(53)も同様だ。二〇一五年、妹の歩き方に違和感を覚えた看護スタッフが病院に連れて行き、太ももに血栓が見つかった。男性は「施設はスタッフの数と質の両面で優れている」と強調する。

 施設とGH−。それぞれ一長一短あり、どちらかに決めるのは簡単ではない。ただ、過去には時間をかけて多くの障害者の意思確認をした例がある。長野県立知的障害者施設「西駒郷(にしこまごう)」(駒ケ根市)の所長だった山田優(まさる)さん(71)は、施設老朽化に伴う建て替えのため〇三年度から、入所者約四百六十人の意向確認を始めた。

 「それまでは家族の意向が優先され、入所者本人が決断することはほとんどありませんでした」。入所者全員に原則GHでの生活を体験してもらい、何カ所も体験を繰り返す人も。どの場所が入所者にとって一番笑顔が見える場所なのかを、職員らが表情の変化からくみ取るためだ。

 意思確認は、山田さんが退職する一〇年度まで八年間続けられた。医療ケアが必要だったり、どうしてもGHが合わなかったりした百人は建て替え後も施設に住む一方、二百五十人はGHに移ることを選んだ。それでも百人以上の入所者は居住先を決められず、次の所長に引き継いだという。

 神奈川県が建設を進めている二つの新施設の完成は二一年度に迫っているが、山田さんは「決断を焦る必要はない」と説く。

 「長年連れ添ってきたやまゆり園の職員が、信頼関係を基に時間をかけて意向を聞き出すようにするべきです。一回GHに出てもうまくいかなかったら、もう一度施設に戻る。人生をたった一回の機会で決めるのではなく、何度でも挑戦すればいいんです」 (加藤豊大、志村彰太)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報