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【社会】

<「やまゆり園」事件から2年>植松被告の「手記」に波紋 出版社側「風化防ぎたい」

出版の意図を語る篠田博之編集長=東京都新宿区で

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 相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で二〇一六年七月、入所者十九人が殺害された事件で、殺人罪などで起訴された植松聖(さとし)被告(28)の発言や手記などをまとめた本「開けられたパンドラの箱」(創(つくる)出版)が今月、出版された。同社が「事件の風化を防ぎたい」と意義を主張するのに対し、「出版で障害者が傷つく」と反対の声も上がり、波紋が広がっている。 (梅野光春)

 同社が発行する月刊誌「創」で一六年十月号から掲載した特集記事をベースにまとめ、二十六日で事件から二年になるのを前に発売された。篠田博之編集長が昨年八月から続ける接見の内容や手記、被告が書いた漫画を収録。被告の差別的な考え方の問題点を指摘し、やまゆり園の入所者家族の主張、精神科医同士による対談なども盛り込んだ。

 篠田編集長は「犠牲者が匿名で発表されるなど、事件は戦後日本が抱えてきた障害者差別の歴史的背景を浮き彫りにした。社会がこの問題に対応できないまま、事件は既に風化している」と危機感を表す。被告が差別感情を抱いた経緯を解明し、再発防止につなげるのが狙いと説明する。

研究室に寄せられた出版に抗議する手紙を示す佐々木隆志教授=静岡市駿河区で

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 出版には批判もある。昨年末から被告と手紙のやりとりや接見をしている静岡県立大短期大学部の佐々木隆志教授(61)=高齢者福祉=は、五月に被告と接見した際に「私の本を読んでください」と初めて出版の話を聞き、驚いた。「差別的な言い分を広めることは許されない」と静岡市などで集めた署名約二千筆を先月、篠田編集長に渡した。佐々木教授に賛同する手紙も大学に寄せられている。

 篠田編集長は「月刊誌での連載を読んだ障害者や施設関係者から、『被告が事件を起こした経緯を詳しく知りたい』など、前向きな意見も寄せられた」と出版の意義を改めて強調。出版への批判を受け、編集の意図を詳しく書き加え、被告の主張を否定する記述を増やすなど内容も修正した。

 それでも、出版後すぐに本を読んだ佐々木教授は「配慮は感じられない」と反論する。三男で知的障害がある豪(ごう)さん(22)は事件後、「障害者はいらないんだ」と口にし、外出をためらった。障害者の存在を否定する犯行の衝撃は強く、今も寝付けずに佐々木教授を呼ぶ夜があるという。「被告の言葉に障害者は傷つく。同じ言葉や考えが、読者にインプットされるのが怖い」と不安を消せないでいる。

 

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