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【社会】

「すり眼」逃さぬ目 刑事魂秘め街に溶け込む

巣鴨地蔵通り商店街ですりを警戒しながら歩く刑事(中央)。カジュアルな服装で刑事には見えない=東京都豊島区で

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 他人の財布をかすめ取る窃盗犯罪「すり」。二〇二〇年東京五輪・パラリンピックを控え、警視庁は観光客らでにぎわう街で取り締まりに力を入れている。一体、どんな捜査をしているのか。女性刑事の一日に記者が同行した。 (木原育子)

 六月初め、縁日でにぎわう巣鴨地蔵通り商店街(東京都豊島区)。すり犯担当の捜査三課、高木美春巡査部長(39)=仮名=は白いシャツ、首に淡い色のスカーフをなびかせ、刑事には見えない。「ホシ(犯人)に気付かれたら終わりですからね」。記者も同世代。ジーパン、スニーカー。買い物客風の装いに「合格」をもらった。周囲に溶け込むことが大事という。

 捜査は基本的に同性同士の二人一組で行う。男性は競馬場や電車内など、女性はバーゲン会場やスーパーなどを主に受け持つ。

 高木さんのカバンには常に手錠と警棒が入っている。「ワッパ(手錠)は、どんな体勢でもすぐに取り出せるようにしてある」

 探すのは、犯人に特有の目つき「すり眼(がん)」だ。例えばバーゲン会場で、周りの客が熱心に商品を選ぶ中、一瞬だけ他人のかばんをのぞき込む。まぶたが下がり、黒目がスッと落ちる。

 取り締まりは現行犯が鉄則。すり眼を見つけると、サッと背後に回って静かに行動を追う。「すり眼を見つけると、稲妻が走ったように体が反応する。ゾクッとするんです」

 記者も目を光らせるが、全員が怪しく見えてくる。高木さんは「眉間にしわが…。ぼーっとしたぐらいが良いかな」とやんわりダメ出し。頭をフル回転させながら、気の抜けた表情で歩くのは想像以上に疲れる。

 「身近な犯罪で泣く人を出したくない」。そんな思いで、高木さんは毎日十五〜二十キロも歩く。被害届の多く寄せられる現場や物産展、人気店のバーゲンセールなどをこまめに巡る。

 励みになるのは被害者からの感謝の言葉。犯人を取り押さえ、財布を取り戻すと、ある高齢の女性は「子どもが初任給で買ってくれた大切な財布。ありがとう」と何度も頭を下げてくれたという。

 父親も警察官。同じ道を志したのは大学生の時。電車内で痴漢の被害に遭い、勇気を出して声を上げたが、男が容疑を認めず、男性駅員からは「あなたがうたた寝していたからだ」と突き放された。悔しくて涙があふれたが、親身になって聞いてくれた女性警察官の姿に胸を打たれた。

 警察官になって十六年。捜査三課に配属され、十年になる。職場結婚の夫(32)との間に長女(6つ)、長男(3つ)、次男(1つ)がいる。すり被害の多い土日は勤務日で、仕事と家庭の両立は大変だが、「親の背中を見て、何かを感じるはず。私がそうだったように」。

 この日は、巣鴨地蔵通り商店街を日が沈むまで歩き回った。地道な積み重ねこそが成果につながると、高木さんは信じている。「女性に捜査の一線は務まらないと思われたくない。刑事魂を持ち続けたい」

 

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