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【社会】

人生変えた手こぎ自転車 埼玉の町工場製作 脳性まひ17歳の通学支え

「風を感じて、気持ちいい」とハンドバイクに乗る北川海人さん=滋賀県日野町で

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 一人で学校に行きたい−。脳性まひで歩行が不自由な少年の願いをかなえた乗り物がある。埼玉県朝霞市の宇賀神(うがじん)溶接工業所が造る手こぎの三輪自転車(ハンドバイク)だ。障害を理由にいじめに遭い、感情を表に出せなかった滋賀県の少年が“相棒”と出会い、自信と明るい性格を取り戻した。 (西川正志)

 田園風景が広がる滋賀県日野町の農道を、高校三年北川海人(かいと)さん(17)のハンドバイクが軽やかに走る。前輪とつながったハンドルを回して進み、電動アシストのため坂も苦にならない。海人さんは「安定感だけじゃなく、爽快感もすごい」と満足げだ。

 脳性まひで常に左足がつま先立ちのような状態となる海人さんは、長時間の歩行が難しく、自転車にも乗れなかった。

 転機は中学一年の時。父克美さん=享年(58)=が死去し、六キロ離れた学校に車で送迎してくれていた母和代さん(54)の負担を減らそうと、「一人で通学したい」と切り出した。障害者向けの自転車がないか、和代さんがインターネットで探したところ、宇賀神溶接工業所を見つけた。

 同社は半世紀にわたり、金属加工を手がけてきた町工場。二〇〇九年、足に障害のある県内の男性の依頼でハンドバイク開発を始め、障害や身長に応じて製作している。「気軽に外へ出かけ、楽しみながら世界を広げる手助けになれば」と宇賀神一弘社長(49)。電動アシスト付きで一台六十八万円以上と価格は安くないが、これまでに二十台のハンドバイクを販売した。

 ハンドバイクは寝そべるように乗るレース用や、車いすに前輪を装着するタイプが主流。これらは乗り降りしづらいなど、毎日の通学には向いていない。そこで、宇賀神さんはシートの高さや足置きの位置を調整したフレームを開発した。障害者向けのハンドバイク教室を開くNPO法人「アダプティブワールド」スタッフの斉藤京(みやこ)さん(38)は「宇賀神さんのハンドバイクは主流タイプの弱点を克服している」と太鼓判を押す。

 小学生の時は障害を理由に差別され「ネガティブで友達もいなかった」と海人さん。ハンドバイク通学を始めると、同級生らが「かっこいいな」と声をかけてきた。友達も増え、「引っ込み思案だった海人が積極的になった」と和代さん。中学二年で琵琶湖一周に挑み、二日で走破した。

 現在、大学受験に向けて勉強しながら、声優になる夢を膨らませている。「昔なら夢をかなえたいとも思わなかった。厳しい世界だろうけど挑戦したい」と前を向く。

 「ハンドバイクは人生を変えてくれた」。海人さんの言葉に、宇賀神さんは「これ以上ない褒め言葉」と笑みを浮かべる。

 宇賀神溶接工業所は現在、電動アシストのないハンドバイクのみを販売中。問い合わせは同社=電048(486)2720=へ。

 

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