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【社会】

「首相お膝元」不信と不安 地上イージス 配備候補地の山口・阿武町

候補地の演習場を背景に、不安を語る原さん(左)と中原さん=山口県阿武町で

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 防衛省が山口、秋田両県に導入を計画している地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」をめぐり、地元の反発が強まっている。安倍晋三首相の「お膝元」ともいえる山口県の農村部でさえ、疑問の声が噴出。配備ありきの国の「上から目線」に、住民らが不信を募らせている。 (原昌志)

 明治維新の歴史的人物を数多く生んだ山口県萩市の中心部から約二十キロ。東京ドーム二十一個分の盆地百ヘクタールの田園風景が広がる阿武(あぶ)町宇生賀(うぶか)地区の間近に、イージス・アショア候補地の「むつみ演習場」がある。地区に嫁いで半世紀以上になる原スミ子さん(75)はため息をついた。「防衛省の説明を聞くたんびに、怖くなる。こないだなんかは『武装グループ』への警備なんて言われた。私ら二、三日留守にしても、カギかけずに出よる。そういう地域なのに…」

 地区の集落には約六十戸、百三十人が暮らす。原さんは「自衛隊には何も嫌なことはないんです。むしろ必要やし」と理解をしてきたが、アショア配備には納得がいかない。演習場は盆地を見下ろす山の上。アショアが配備されると、レーダーの強力な電波が海に向かって集落の上を通ることになるが、人体への影響はないか心配だ。また、迎撃ミサイルは上空を飛んでも危険はないのか、施設建設で地下水の流れがどうなるのか。そして有事に攻撃目標になる恐れは−。不安は尽きない。

 防衛省は、電波は上空に照射することなど安全性を強調。ひたすら「ご理解を」と繰り返すが、地区の農事組合女性部の役員を務める中原智恵子さん(64)は「本当に何も影響がないのか分からんでしょう。私らはずっと住み続けるのに、万が一問題があったらどうするの」と眉をひそめる。

 人口約三千三百人の阿武町は、保守地盤が強固な土地柄だ。昨秋の衆院選の比例票は与党が七割に達した。旧民主党が政権を奪った二〇〇九年でさえ、自公が六割を占めた。当初、防衛省内には「反対は強くないだろう」との楽観論が出ていたほどだった。

 だが「ずっと自民党だったが、今度ばかりは絶対許せんね。党員も辞めた」と、民宿や農業を営む白松博之さん(71)。演習場から数百メートルしか離れていない農地で、レタスやハクサイを育てている。県内でも有数の出荷量という。「若い人に就農してもらおうと、環境の良さをアピールしてきた。アショアでイメージは確実に悪くなる。弾道ミサイル防衛は分かるが、地域に迷惑をかけない方法を考えられんのか。イージス艦でもいいでしょう」

 宇生賀地区の農事組合法人組合長の田中敏雄さん(67)も七期目の自民系町議だが、必要性や安全性ばかりを強調する国の姿勢に批判的だ。「小さな町に、一億人のためにあんたら我慢しろ、と言っているようにとられてもしょうがない。弱者切り捨てというのかな。今の政治のやり方が見えてくる気がする」

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◆秋田でも住民反発強く

 イージス・アショアは、イージス艦に搭載されているミサイル迎撃システムの地上配備型。日本に向かう弾道ミサイルを高性能レーダーでとらえ、迎撃ミサイルを発射し、軌道上で撃ち落とす。補給などで寄港が必要な艦船と違い、常時運用が可能とされる。二〇二三年度の運用開始を目指すが、製造する米側は、契約から配備まで六年かかるとしている。

 政府は六月一日、陸上自衛隊の「むつみ演習場」(二百ヘクタール、山口県萩市・阿武町)と「新屋演習場」(百ヘクタール、秋田市)を候補地と正式に公表。地元説明会を重ねているが、ともに住民側の反発は強く、防衛省は八月に予定していた地質調査などの入札手続きを九月に延期した。

 阿武町は「計画撤回」を求める住民の嘆願書を同省に提出。秋田市も、レーダー電波の照射方向の海側に人家はないが、付近は市街地で小中学校や高校があるため、配備に否定的な姿勢を示している。

 また費用が本体だけで当初見込みの一基八百億円を大きく上回る千三百四十億円となるほか、主な配備理由だった北朝鮮情勢の緊迫度が低下していることなどから、早期導入への異論がある。

 

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