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【社会】

山谷で聞いた、あなたの足跡 支援者が冊子創刊

「あじいる」を紹介する「あしあとプロジェクト」のメンバーたち=東京都荒川区で

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 簡易宿泊所が並ぶ東京・山谷地区(台東、荒川区)で暮らす日雇い労働者や路上生活者らの人生を聞き書きした冊子「あじいる」が創刊された。生活困窮者らの支援者たちが「彼らが生きてきた証しを残したい」と編集。高齢化が進む「労働者の町」のそれぞれの軌跡から、社会の矛盾が浮かび上がる。 (中村真暁)

 中心メンバーは、医療や生活に関する相談会を山谷周辺で毎月開いている「隅田川医療相談会」(荒川区)と、福祉施設などに食材を提供する「フードバンク」(同区)などの有志七人。両団体はコメの精米や配送などに共同で取り組み、相談会で出会った労働者らも作業に参加している。

 山谷には複雑な背景を抱える人も多く、過去を聞かないのがエチケットだ。それでも関係が深まると、昔の話をしてくれる人もいる。坪一さん(86)=仮名=も二、三年前から、過去の話を語り始めた一人だ。

 若いころ足尾銅山(栃木県)で働いていた坪一さんは、働き方や採掘方法を詳細に説明してくれた。だが、荒川朋世さん(30)ら若いメンバーには想像できないことばかり。その昔語りに引かれたメンバーたちは「実際に見たい」と、昨年一月には坪一さんと一緒に足尾銅山も訪れた。見学できる坑道やトロッコ電車を見て回ると、いつも寡黙な坪一さんも目を輝かせた。

「恥ずかしいな」とつぶやきながら、あじいるを読む坪一さん

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 日本の高度経済成長を支えた「山谷の人生」の一端に触れた体験から、荒川さんらは昨年春、坪一さんや他の労働者らの軌跡を残す「あしあとプロジェクト」をスタート。冊子名はフランス語で「統治権力が及ばない地域」などの意味があるアジールから付けた。五月に発行された創刊号では、全国の炭鉱や山谷で働いた坪一さんの人生をたどる。荒川さんは「山谷の仲間はスポットライトが当たりにくく、怖いイメージも持たれがちだが、日本の近代社会を支えてきた。彼らが生きた足跡を残したかった」と振り返る。

 各地の炭鉱閉山など世の中の出来事と坪一さんの人生を一覧できる年表も付けた。山崎まどかさん(51)は「個人をしっかりと知ると、社会的な背景も見えてくる。なぜ山谷にたどり着いたかに思いをはせてほしい」と狙いを説明する。

 創刊号は無料で、A5判、十七ページ。入手方法は「あしあとプロジェクト」のホームページで紹介。次号は秋ごろ発行予定。発行継続のため寄付も募っている。

 

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