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【社会】

日航機墜落33年 慰霊登山 命尊さ夫婦で伝え 悲しみのケア「還元したい」

「御巣鷹の尾根」にある「昇魂之碑」に手を合わせる工藤康浩さんと理佳子さん=12日、群馬県上野村で

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 日航機墜落事故で結婚半年の妻を失って三十三年。東京都足立区の建築士工藤康浩さん(58)が十二日、「御巣鷹の尾根」に慰霊登山した。隣で付き添う今の妻理佳子さん(56)とは今年で銀婚式。「女房のおかげで、心を成長させることができた」と思える。

 この日は、険しい登山道を別の遺族と共に歩んだ。墓標に着くと花や線香を手向け、目を閉じて手を合わせた。静かに命に向き合うため、大勢の人が来る命日の登山を避けてきたが、遺族や地元の人たちと思いを共有しようと思い直して昨年から訪れている。

 契機は五年前から理佳子さんと地元で始めたまちづくりの活動。深い悲しみを抱く人を支える「グリーフケア」が活動の核だ。「地域を飛び回るのがおもしろくて仕方がない。自分の運命を還元したい」。七月、立教大の授業に招かれた工藤さんは学生に語った。

 事故で亡くした妻由美さん=当時(24)=は結婚後、初めて神戸に里帰りするため日航機に搭乗。迷走を続けた三十二分間の機内と恐怖を想像すると眠れず、バーボンのボトルを毎晩空にした。

 理佳子さんと出会ったのは五年後。「運命を受け止めてくれるのか…」。現場の「御巣鷹の尾根」に誘った。号泣して登山道を歩く姿に、結婚を申し込む決意を固めた。

 結婚後、事故の話はほぼしなかった。大切にしたのは精いっぱい仕事し、笑い合い、けんかしながら「悲しみと共に生きる」。理佳子さんは「今、活動できるのは普通の生活を取り戻せたから。悲しみだけで幸せは生まれない」と語る。

 地元で開くまちづくり会議のテーマは団地の再生や公園の在り方など多様。「人の悲しみを自分たちのことのように感じられる、顔の見えるまちづくりの種をまきたい」。昨年からは、知人や商店街を巻き込んで短い映画の撮影を始めた。

 「尾根が人の訪れない元の山に戻ってもいい。それまでに僕らが本当に大切なものを残せるかだ」と工藤さん。命の重さと尊さを、二人で伝えていく。

 

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