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【社会】

墜落直前に急加速なぜ 9人死亡群馬ヘリ事故1週間

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 搭乗員9人全員が死亡した群馬県の防災ヘリコプター「はるな」の墜落事故は17日で発生から1週間。墜落直前に急加速しており、運輸安全委員会による原因究明の焦点になりそうだ。目撃情報や専門家の話から天候不良の中、飛行する位置や高度を見失った可能性も浮上するが、機体回収のめどは立たず全容解明には長期化が予想される。

 「山には雲がかかっていて上空の様子が心配だ」。吾妻広域消防本部の田村研さん(47)は搭乗前、そう漏らしていたと同本部関係者は明かす。

 衛星利用測位システム(GPS)を用いた運航記録によると、十日午前九時十三分に前橋市を出たヘリは途中にある群馬県長野原町の西吾妻福祉病院で吾妻広域消防本部の隊員を乗せ、稜線に沿った登山道を確認しながら飛行。午前九時五十七分ごろ群馬、長野県境の渋峠を過ぎると予定ルートをやや東側にそれる。近くの山小屋経営者は霧と霧の合間を縫うように飛ぶのを目撃し「こんな中を飛ぶなんて」と思ったという。

 記録では、予定ルートを外れた頃の時速は四十〜六十キロ。ベテラン操縦士は「ヘリとしてはかなり遅い。霧や雲で視界が悪いため、障害物をすぐ避けられるよう低速で飛んでいたのでは」とみる。

 午前九時五十九分三十九秒、時速二十キロで予定より手前で右回りに急旋回し、来た方向へ戻り始める。十時〇分二十秒に七十五キロに加速するが、同四十秒に三十キロまで減速し、再び右に旋回して百四十五キロに急加速。十時一分を最後に位置情報は途絶え、北西一キロ強の群馬県中之条町の山中に墜落した。

 急旋回について、別の操縦士は天候不良が原因との見方だ。「視界が遮られれば飛んできた方向に戻れば安全。そこで視界が開けるような飛行ルートを探すはずだ」

 急加速はなぜか。運輸安全委の元事故調査官楠原利行さんは「操縦士が霧や雲に阻まれ『空間識失調』に陥ったとすれば説明がつく」と話す。空間識失調は平衡感覚や機体の姿勢・飛行状況の感覚を全て失うため、視界を確保し感覚を取り戻そうと、急激な加速や上昇・下降といった操縦につながりやすいという。

 楠原さんは、飛行高度は安定しており機体の不具合の可能性は低いと指摘。「霧や雲を避けてルートをずらしたが、それらに阻まれ引き返そうと急旋回し、また囲まれてしまったのでは。ベテラン操縦士でもそうした状況なら機体の状態が分からなくなり、雲や霧を抜けようと急加速することは十分ある」と述べた。

<空間識失調> 航空機の操縦士が飛行中、一時的に機体の姿勢や進行方向、運動状況を正確に把握できなくなる状態。霧の中や夜間の飛行など視界が悪い時や、機動性の高い小型機の操縦など三半規管に負担がかかる飛行で起こりやすい。感覚を取り戻そうと急な操縦をしやすくなるため、視界だけに頼らず、航空機の計器類に基づいた操縦が必要となる。2017年の航空自衛隊浜松基地のヘリ墜落や15年に宮崎県で起きた海自ヘリ墜落でも事故原因とされた。

 

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