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【社会】

旧海軍、毒ガス人体実験 国内で米軍使用に備えか

相模海軍工廠の報告書「除毒剤ニ関スル研究」には「人体実験」や「大水疱生ジ」などの表現が記されている=防衛省防衛研究所戦史研究センター所蔵

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 日中戦争や太平洋戦争当時に旧日本海軍が、毒ガス研究のため国内で人体を使って実験していたことが分かった。皮膚をただれさせる「びらん剤」を塗るといった内容を詳述した複数の資料が、防衛省防衛研究所と国会図書館に所蔵されているのを共同通信が確認した。一部は軍関係者が対象と明記され、皮膚に水疱(すいほう)が生じる被害も出ていた。

 日本軍の毒ガスを巡っては、陸軍が中国大陸で戦闘や人体実験に使った記録などが一部残っている。今回の資料で海軍による人体実験が裏付けられた。

 中央大の吉見義明名誉教授(日本近現代史)ら複数の専門家は、初めて見る資料とした上で、国内で米軍との毒ガス戦を想定していたことが、実験の背景にあるのではないかと指摘する。

 防衛研究所は、海軍で毒ガス兵器の研究開発を担った技術研究所化学研究部(神奈川県)と、これが改組された相模海軍工廠(こうしょう)化学実験部(同)の報告書を複数保管する。びらん剤のイペリットやルイサイトを除毒する薬剤開発に関する内容。

 このうち相模海軍工廠が一九四四年にまとめた「除毒剤ニ関スル研究」という報告書は、開発した薬剤の効果を人体で確かめる実験を記述。イペリットを腕に塗り薬剤で洗ったり、イペリットを染み込ませた軍服の布地を薬剤で洗った後、人の皮膚に付けたりして観察した。大きな水疱ができた人がおり、一部の実験は軍関係者が対象と記している。表紙には「秘」「処理法・用済後焼却要通報」との表示がある。

 毒ガスを人に吸わせる実験の論文が国会図書館にあることも判明。「ガス検知ならびに防御に資する」目的で四一年に実施した実験では、くしゃみ剤や嘔吐(おうと)剤と呼ばれた種類の毒ガスを吸わせ、感知までの時間を調べた。

 吸入実験の対象は少なくとも十六〜三十九歳の八十人だが所属は不明。健康被害はなかったとしている。著者は舞鶴海軍病院(京都府)などに所属した軍医で海軍省教育局の「秘密軍事教育図書」とされていた。

 別の海軍軍医が、理論的に耐えられないとされる濃度のガスを吸わせるなど、人を使い「幾多の実験」をしたとの先行研究が引用され、実験を繰り返したことがうかがえる。

報告書の表紙=防衛省防衛研究所戦史研究センター所蔵

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◆陸軍も兵士に体験

<「日本軍の毒ガス兵器」の著書がある歴史研究者松野誠也さんの話> 海軍は戦争末期、米軍が先制的な毒ガス戦に踏み切ることを恐れ、報復用にイペリット爆弾の大量生産を進めていた。切迫した状況下、米軍に使われた場合の備えとして除毒剤の開発を進め、人体実験で治療効果の確認をしたと考えられる。陸軍も教育で兵士に毒ガスを体験させていた。当時は兵士の人権に配慮しておらず、海軍も「この程度なら問題ない」という認識で実験したのではないか。

<旧日本軍の毒ガス> 敵を殺したり戦闘能力を失わせたりするのが目的で、複数の種類があった。びらん剤は皮膚をただれさせ、目や呼吸器にも被害を与える。このうちイペリットはマスタードガスとも呼ばれる。くしゃみ剤(嘔吐剤)は目や喉に激しい刺激を生じさせる。高濃度だと嘔吐や呼吸困難に陥る。肺の障害を引き起こす窒息剤や、細胞の呼吸を阻害する血液剤もあった。国内の製造工程で多くの健康被害を出した。中国大陸には大量に遺棄され、戦後、流出による被害が報告されている。化学兵器禁止条約で日本に廃棄処理が義務付けられ、作業が続いている。

 

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