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【社会】

矯正管区駅伝 熱射病死 熱中症予防指針、知らずに強行

母親が営む飲食店に飾られた岩田一悟郎さんの遺影。いつも友人や同僚に囲まれていた=東京都内で

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 法務省東京矯正管区の駅伝大会で、三十二歳の男性職員が命を落とした。出場者の証言からは、三〇度を超える中で強行された大会が、いかに過酷だったかが浮かび上がる。熱中症が社会問題となる中、中止する選択肢はなかったのか。遺族は突然の別れに気持ちの整理がつかない。 (小野沢健太、山田雄之)

 「うわぁ、これ本当にやるの」。駅伝大会に出場した二十代の男性職員は、会場入りした際に思わずチームメートと顔を見合わせた。蒸し暑くて息苦しく、立っているだけで汗が噴き出た。

 この男性とは別チームの岩田一悟郎さんが倒れたのはスタートから約三十分後。「AED! AED!」。大慌ての係員が叫びながら、大会本部のテントに駆け込んでいった。係員はすぐに自動体外式除細動器(AED)を受け取り、自転車でまた戻っていった。

 「誰か倒れたらしい」。出番を待つ出場者らの間でそんな声が行き交ったが、主催者からの説明はなく、大会はそのまま続いた。

 男性もたすきを受け継ぎ、走り始めた。「水をかぶりたい」。つらくて何度もつぶやいた。「小まめに水分補給するように」との場内アナウンスが耳に入ったが、給水所はない。何とか走り終えると、脱水症状になったのか、目がチカチカしていた。

 岩田さんの母、まり子さん(71)が営む東京都内の料理店の片隅には、一人息子の遺影が飾られている。少年刑務所の寮で暮らしていた岩田さんが同僚や友人らに囲まれて笑顔を見せる写真の数々。

 まり子さんは「小さいころから運動が好きで、最近もフットサルをやっていた。矯正施設の子どもたちと一緒に走ったりもしていた」と振り返る。

 快活だった息子の突然の死。「駅伝に出ることが決まって、自分なりに練習もしていたみたいなのに…。残念でならない」と言葉を詰まらせた。

 岩田さんと親交のある別の出場者も、こう話して肩を落とした。「まじめで人の頼みを断れない責任感の強い男。つらくても、たすきをつなごうと無理してしまったんでしょうか」

 

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