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【社会】

「がんは死なない病気になる日が来る。時間の問題」 ノーベル賞、本庶さん語る

自らの研究が薬となるまでの苦労を語る本庶佑京都大特別教授=2017年8月、東京都中央区で

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 ノーベル医学生理学賞に選ばれた本庶佑(ほんじょたすく)・京都大学特別教授(76)は、がん治療の新しい扉を開けた。免疫の力を利用する「がん免疫治療法」だ。がんの三大治療といえば手術、抗がん剤、放射線。免疫治療法は、第四の方法として期待が高まる。本紙は、昨夏に本庶さんにインタビューし、功績や人柄に迫った。今回さらに加筆して本庶さんの言葉を紹介する。 (三輪喜人)

 −開発したがん免疫治療の効果は。

 比較的、副作用が少なく、全員ではないが、がんが完治するようになりました。原理的には、ほぼ全部のがん種に効くと思います。

 世界中の研究者がよってたかってやっているので、次々に改良が進んでいる。がんは死なない病気になる日が、いずれ来ると思う。時間の問題でしょう。

 −発見の経緯は。

 不要になった細胞を壊して取り除く「細胞死」の仕組みを解明しようとしたのが始まりです。研究する中で一九九二年、免疫の働きに関係すると考えられる「PD−1」というタンパク質を発見しました。最初は役割が分かりませんでしたが「これは重要なものだ」と直感しました。免疫に関わるリンパ球にしか現れなかったからです。

 マウスの実験では、PD−1が正常に働かなくなると、免疫がとても活発になって、自分の体の正常な細胞を攻撃して殺してしまう自己免疫疾患が起きました。PD−1は細胞死に関連しておらず、免疫にブレーキをかけていたのです。

 −何かに役立ちそうだと思いましたか。

 「医療に応用できるのではないか」と当然考えました。医者ですからね。免疫の働きをコントロールする働きが役立ちそうなのは、がんの治療や臓器移植などです。

 実験でPD−1が働かなくなったマウスと正常なマウスを比べると、がんの増殖に明らかに差が出ました。「やっぱり重要なんだと分かった。がんに使えるな」と思いました。二〇〇二年に、PD−1をブロックするとがんが治るという論文を出しました。

 −人間にも効果があると思いましたか。

 ネズミで効いて、ヒトで効かなかった薬は山のようにある。やってみなければ分かりません。だが、原理的に考えて、非常に可能性があると思いました。

 古くから付き合いのあった小野薬品工業(大阪市)と共同で特許を出願しました。薬の開発を「やるか」と持ちかけましたが、返事は「自分ではできない」。ちっぽけな会社で、がんもやったことない。

 そこで小野は、国内の製薬企業に共同研究を持ち掛けました。一年くらいかけて、外資も含め十数社、全部「ノー」。小野も「自分たちはやる気がないから降りる」と。

 −どうしてすべて断られたんですか。

 当時、免疫でがんを治すなんて誰も信じていなかったんです。それまでのがん免疫療法は失敗ばかりだったからね。医学界にも不信感がありました。

 「自分でやる」と決め、友達の米国ベンチャーに行きました。一時間ほどの話し合いで「わかった。やります」と即決でした。

 ベンチャーと組んだことを小野に伝えると、しばらくして「やります」と急に態度が変わった。ほかの会社が特許をみてPD−1に関心を持ち始めたのを知ったからでしょう。ベンチャーを断り、小野と一緒にやることにしました。

 米国で臨床試験が始まると、すぐ情報が伝わってきた。「すごく効いている。とんでもない」と。末期がん患者でも、びっくり仰天効くと分かった。新薬はオプジーボと命名され、日本で一四年に皮膚がんの一種メラノーマ(悪性黒色腫)に対して承認されました。

 −承認されるがん種が広がっています。

 問題は、一つの臨床試験に最低でも何十億円とかかり、そのコストが全部薬価に転嫁されること。原理的に見て、胃がんの副作用と肺がんの副作用が違うなんてありえない。薬を待っている人はたくさんいます。仕組みを見直さないと、コストがかかるばかりで前に進みません。

 −研究室のホームページに「生命体の思想を学ぶ」という学生へのメッセージが掲載されています。

 生命とエンジニアリング(工学)は違う。ところが、いまの日本政府の主流はサイエンスといえばエンジニアリングですよ。

 工学なら、ロケットを打ち上げるとき、ロケットに何が足りないのか想定できる。足りないところをデザインして改良していく。

 だが、薬は何が効くか分からない。どこを狙ったらいいかも分からない。やってみるしかない。多様性が膨大すぎて、コンピューターでも計算できないのです。遺伝子が分かっても遺伝子だけで生きているわけじゃない。生命現象を人工知能(AI)で再現はできない。

 製薬企業でも生命現象の全体で、どの部分を狙って薬をつくるかという非常に大きな見方ができないとだめ。つまり幅広い知識がないといけない。だから医学教育は重要なんです。医学は詰めこみ暗記なんだけど、生命現象は、まずそれをやらないと始まらないのです。

 

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