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【社会】

競り情熱 娘へ託す 「この先は不安だらけ でも仲卸は楽しいから」

常連客からプレゼントを受け取る徳永文夫さん(左)=午前9時6分(隈崎稔樹撮影)

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 築地市場で働く約五百三十の仲卸業者の中には、豊洲市場に移転せず、廃業を決めた業者も少なくない。エビを専門に扱う「徳永水産」もその一つ。「長い間ありがとうございました」。徳永文夫社長(63)はこの日、客や仲卸仲間に笑顔で感謝の言葉を述べた。

 熊本県の水産高校を卒業後、エビを扱う問屋に入社、十九歳で築地に入った。知人の仲卸業者の店で勤務し、三十歳で競りを任された。熱気のこもった競り場、同業者との駆け引き、自らの意思で値を決める高揚感…。競りの魅力に取りつかれた。二〇〇〇年に独立をかなえ「徳永」の屋号を初めてつかんだ。

 築地と歩んだ四十四年。競りで養った「目」は財産に。色味や鮮度を素早く見て競り落としたエビの品質は、目の肥えた買付人にも信頼された。「トイレに行く暇もないほど忙しかったんだ」。ささやかな自慢だ。

客にあいさつする文夫さんの次女・亜紗海さん=午前7時33分

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 一六年十一月に計画されていた豊洲への移転にあわせて、店を移すことも考えていた。ところが、その約半年前、直腸がんが見つかった。移転費用の五百万円も大きな負担に。先細る業界に展望も見えず、身を引く決意を固めた。

 徳永さんの背中を追って競りに立ってきた次女の亜紗海(あさみ)さん(34)も、同時に引退するつもりだった。だが、「まだ私からエビを買いたいって言うお客さんがいる」と、豊洲に移転する別の仲卸業者で働くことにした。悩んだ末の決断だ。この日もてきぱきと注文をこなし、「あっち(豊洲)でもよろしくね」と元気に声を掛けた。

 「まだまだ父には及ばない。この先も不安だらけ。でも、楽しいから。仲卸の仕事は」。そう言って相好を崩す亜紗海さんの思いを、徳永さんは静かに受け止め、豊洲へと送り出す。 (神野光伸、宮崎美紀子)

 

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