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【社会】

玩具のヘリで父しのび 長野ヘリ事故報告書 遺族の心埋まらず

清水亮太さんの長男が作ったブロック玩具のヘリ。清水さんの生前の写真とともに飾られている=25日、長野県松本市で

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 長野県松本市の山中で昨年3月、県消防防災ヘリコプターが墜落し、9人が死亡した事故から1年半余り。運輸安全委員会が25日に事故調査報告書を公表したが、亡くなった整備士清水亮太さん=当時(45)=の妻直子さん(45)=同市=と幼い子どもたちは、夫や父親を突然失った寂しさと向き合いながら日々を過ごしている。報告書から悲劇の原因は伝わらず、心の穴は今も埋まらない。「やっぱり、いてほしかった」 (川添智史)

 二〇一七年三月六日朝、直子さんが市内の病院に駆け付けると、亮太さんの全身に布が掛けられていた。立ち会いの警察官に頼んで顔を見せてもらうと、額に三センチほどの深い傷があった。太い眉毛や目元からすぐ夫と分かった。現実感が湧かなかったが、氷のように冷たい右手に触れて、初めてはっとなった。「本当のことなんだ」

 夫を送り出した夜、小学二年だった長男(9つ)は、ブロック玩具で父親のヘリを作った。その後、時々「アルプスちゃん、墜落した」と床に落とすように動かすようになった。「事故を受け入れようとしているのかな」と見守ったが、昨夏以降は「父ちゃんに見てもらう」と遺影の前に飾る。

 事故当時二歳だった長女(4つ)は今春、幼稚園に入った。他の園児が迎えに来た父親と遊ぶ姿をじっと見つめ、「○○ちゃん、お父さんいるんだってー」と話し掛けてくることもある。

 「生きてたら、今日休みかな」「お迎え来てくれるよねー」。父親のいない暮らしに慣れないようにしているのか、長男と長女が無邪気に問い掛けてくる。直子さんはそんな二人を見つめながら、家族四人の絆を確かめる毎日だ。

 子どもの愛らしいしぐさを笑ったり、日常の出来事について話し合ったりする相手がいない現実にも気付かされる。運動会でカメラを構える他の子の父親を見ると、同じように子どもを追っていたはずの夫の姿が浮かび、苦しくなる。

 「夫は何のために亡くなったのか」。疑問に答えてくれるはずだった報告書だが、七十ページにわたる冊子のどこを読んでも答えは出てこない。「なぜもっと高く飛ばなかったのか。誰も声を上げなかったのか」。再発防止をうたう記述がむなしく映った。

<長野県消防防災ヘリ墜落事故> 2017年3月5日、山岳救助訓練に向かった県消防防災ヘリ「アルプス」が同県松本市の鉢伏(はちぶせ)山山中に墜落し、乗っていた操縦士や消防隊員ら9人全員が死亡した。県警は業務上過失致死の疑いで捜査本部を設置し、捜査している。運輸安全委員会は今月25日、山肌が接近しても回避操作が行われずに墜落したとする調査報告書を公表した。

 

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