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【社会】

企業型保育所×助成支給遅れ 保育士一斉退職 給料に不安?直後休園

保育士が一斉に退職した「こどもの杜上北沢駅前保育園」=東京都世田谷区で

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 東京都世田谷区で今春開所した企業主導型保育所で、保育士5人全員が10月末に一斉退職し、11月から休園している。企業主導型は自治体が設置に関与しない認可外施設のため、区も運営実態を把握しておらず、利用家庭の親子に影響が出る事態となった。 (神谷円香)

 休園したのは、保育事業を手がける株式会社が運営する「こどもの杜(もり)上北沢駅前保育園」(世田谷区上北沢)。社長(47)によると十月中旬、園長はじめ五人の保育士が月末に退職すると申し出た。

 会社は他に運営する二園から保育士を回そうとしたが、その一つで同区内の「下高井戸駅前保育園」でも、園長ら保育士二人が十月三十一日に「今日で辞める」と退職。調整が付かなくなったという。

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 社長によると、保育士らは退職の理由を「給料に不安がある」と説明した。社長は、内閣府の委託で助成金を支給する「児童育成協会」からの運営費支給が遅れていたことを明らかにした上で、「先々への不安があったのかもしれないが、未払いはない」と否定。会社から聞き取りをした同協会は「保育士と経営者の信頼関係ができていなかった」としている。

 会社は下高井戸園では臨時の保育士を確保して運営を継続。上北沢園に通っていた十人のうち二人も受け入れ、上北沢園も再開に向けて保育士の確保などを進める。同協会や区も預け先について保護者からの相談に応じている。

 下高井戸園に転園した二歳男児の父親(42)は「急に休園と聞かされ驚いた。認可保育所などには入れず、ようやく九月に入れた園だったのに」と困惑。下高井戸園に一歳男児を預ける父親(28)は「保育士も友達も代わりすごく不安。でも、他に移れるところもない」と話した。

 世田谷区では七月にも、企業主導型保育所が園児不足で休園した。企業主導型は区に審査や指導の権限がなく、情報共有も十分ではないという。区が上北沢園の休園を知ったのも直前で、担当者は「情報を直接聞き取る権限があれば、休園に至る前に手が打てたかもしれない」と話す。

◆緩い設置基準×自治体無関与 代償は子どもに

 企業主導型保育所は二〇一六年度、政府が待機児童対策の目玉として創設した。企業が主に従業員の子どもを預かる認可外施設として急速に広がり、三月末時点で全国に二千五百九十七カ所、定員は約六万人に上る。政府は二〇年度までにさらに定員を六万人増やすことを目指している。 (大野暢子、奥野斐)

 一方、都道府県などへの届け出だけで原則、審査を受けずに設置できることや、保育士資格者が半数でよいなど認可保育所に比べて基準が緩いにもかかわらず、運営費などが認可並みに助成されるため、助成金目当ての参入や、保育の質に対する懸念が導入当初から指摘されていた。

 実際、制度を所管する内閣府から委託された「児童育成協会」が一七年度、八百カ所を調べたところ、76%で保育計画などに不備があった。今回のトラブルでは、自治体や公的機関が保育内容に責任を持たず、突然の休園という事態を食い止められない構造が浮き彫りになった。

 内閣府の担当者は「内容は把握しているが、各施設の運営や保育の質については、児童育成協会が個別に指導することになっている」と説明。参入基準の引き上げなど制度を見直す予定はないという。一方、同協会は「各施設の個別の状況まで逐一把握はできていない」としており、施設の急増に態勢が追いついていないのが実情だ。

 東京都も児童福祉法に基づき十月、上北沢園に定例の立ち入り調査をした。下高井戸園も法令に基づかない巡回指導をしたが、運営面のトラブルは確認できなかった。都の担当者は「認可外施設は、基本的に利用者と施設の直接契約。新たな預け先の確保も一義的には施設側の責任」と話す。

 保育制度に詳しい寺町東子弁護士は「そもそも認可外施設を増やして待機児童解消を図る国の方針がおかしい。企業主導型は、児童育成協会に丸投げしているのも問題」と指摘。「設置に審査を必要としない代わりに、設置後にチェックして規制すると説明してきたのに、指導監督権限が強化されていない」と批判する。

<企業主導型保育所> 企業が従業員向けに設けた保育所や、保育事業者が設立して複数の企業が共同利用する保育所などを指す。幅広い企業が負担する「事業主拠出金」が財源。基準を満たせば開設費用の4分の3相当の助成金があり、運営でも認可保育所並みの助成金を受け取れる。都市部で定員20人のモデル例では、助成金額は開設工事だけで1億円強になる。3月現在で全国に2597カ所あり、定員は計約6万人。

 

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