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【300文字小説】

カレンダー 渡辺正

イラスト・瀬崎修

写真

 「いち、さん、ご、ひち、や、とう、じゅうに…西向く士(さむらい)」

 ひと月の日数が31日ある月と30日(2月は28日)の月を覚えるための語呂合わせ。しかし、なぜ31日の月と30日の月を交互に作らなかったのだろう。奇数の月は31日、偶数の月は30日だと覚えやすい。だけど、こうすると1年は366日になる。

 12月は忙しいから31日欲しい。8月は夏休みのために31日。帳尻合わせで9月と11月を30日に、10月を31日にする。これでも2日多い。

 4月は新学期で余裕を持たせるために減らせない。6月は稲のために雨が欲しいから減らせない。寒い時期は早く過ぎて欲しいので2月を2日減らすか。結局、元のカレンダーに戻った。

 (愛知県東郷町・嘱託員・62歳)

◇ ◇ ◇ ◇

運 野田充男

 神社でおみくじを引くと小吉だった。

 大吉でないのが不満だったが、まあ凶ではないし、よしとするか、と思い直し、神社の帰りに家電量販店に寄った。

 高感度携帯ラジオを買おうとしたが、一万円近い値段で、予算オーバー。今度にするか、と別な商品を持ってレジに行った。

 私の商品のバーコードをピッと器械が読み取った瞬間、「おめでとうございます、お客様は本日百人目ですので、『感謝キャンペーン』により、お代が半額になります」と店員が言った。

 「えっ」

 私は一瞬驚き、嬉(うれ)しいような悲しいような複雑な心境になった。

 そして、店頭価格の半額、五十円を現金で支払い、単四電池四本セットを受け取った。

 (こんなことなら…)

 (千葉県浦安市・会社員・59歳)

◇ ◇ ◇ ◇

扉 西窪絢子

 オレは目の前の光景に目を疑った。両目を腕でぐいぐい拭ってから、もう一度見る。

 やっぱり変わらない。

 たしかに「どこでも行けるドアがあったらなあ」とか「いつかジャングルの奥地に行ってみたいなあ」なんてことを冗談で言ったことはある。

 だけど、なにもこのタイミングでなくても…。

 とりあえず扉を閉めて、深呼吸。

 よし、もう一回!

 勢いよく開けた扉の向こう側は…やっぱり、ジャングル。

 がっくりうなだれたオレは、静かに扉を閉め、つぶやいた。

 「違うんだ…違うんだよ。オレが今、本当に行きたい場所は、トイレなんだよ〜」

 がばっと開いた扉の先には、いつものトイレ。

 以後、この扉が別の場所に通じることは一度もなかった。

 (名古屋市中村区・主婦・37歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 月々の日数を巡って、渡辺正さんの「カレンダー」。語呂合わせなど必要ない画期的提案を思いついたはずでしたが、あれこれ月ごとに配慮した結果、ひと回りして元通り。

 その日のおみくじが告げたのは、悪くはないが、それほど素晴らしいわけでもない、野田充男さんの「運」。結局、ツキを活(い)かせるかどうかは、本人次第ということでしょうか。

 開けてビックリ、西窪絢子さんの「扉」。普段、こんな不可思議を目の当たりにしたら、夢がかなったと大喜びするところでしょうが、主人公には、別の事情がありました。

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