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【300文字小説】

新聞と猫 朝岡みゆき

イラスト・瀬崎修

写真

 新聞を広げると、猫が飛び乗ってきた。そして前足で、バシッと紙面を叩(たた)いた。

 離した跡を見ると、一文字分の空白ができている。前後の文脈から、消えた文字は漢字の「虫」だとわかった。探すと、隣の記事の見出しの後ろに、不自然に「虫」が止まっている。

 見つけた猫が捕まえようとすると、「虫」は紙面の奥深く、文字の森の中へ逃げていった。すると、なんと、猫は漢字の「猫」に化けた! そして「虫」の後を追って、紙面の中へ消えていった。

 私は、猫じゃらしを新聞の上で振った。猫の前足が出て、じゃれついた。猫じゃらしを走らせると、猫が一気に飛び出してきた。猫は満足げに眠り始め、私は再び新聞を読み始めた。

 (愛知県豊橋市・主婦・46歳)

◇ ◇ ◇ ◇

虫かご 森登美

 学生の時、生徒数が二十名ほどの山里の小学校へ教育実習に出かけた。

 授業の見学や休み時間に一緒に遊んだりして一日目から生徒たちと仲良しになれた。放課後、宿泊先のお寺へやって来た生徒たちから「これを部屋に置いとくと怖くないで」と、虫かごを渡された。

 「???」

 夕食後に先生方と実習生たちがお寺で反省会をしていたら、突然の停電で真っ暗に。その時、青白い光がポワーと動いた。

 「ナ、何?」「キャー」と悲鳴が上がり騒然。

 「大丈夫、生徒がくれた蛍だよ」と言うと、皆が落ち着いた。

 次の日、子供らが教えてくれた。

 「あのお寺、よう停電するんや。暗いと怖いやろ。役に立った?」

 「ウン、ありがとうね」

 (愛知県一宮市・主婦・70歳)

◇ ◇ ◇ ◇

どっちが子ども? 高見直宏

 親子で散歩していると、電線にスズメがとまっていた。息子が問いかけてきた。

 「なんでスズメは感電しないの?」

 オレは返事に窮した。

 「ねえ、なんで感電しないの?」と息子がさらに突っ込んできた。オレはやむなく答えた。

 「感電したらヤキトリになっちゃうだろ。それじゃかわいそうだから感電しないんだよ」

 息子はフンと鼻を鳴らして説明した。

 「電位差がないからだよ」

 オレはムッときて、言い返した。

 「知ってるなら聞くなよ」

 「なら電位差って何?」

 再び窮するオレに息子は言った。「知らないなら聞いてよ。聞くは一時の恥なんだから」

 いつからだろう。こんな風に親子逆転したのは。これも人類の進歩の証しなのだろうか。

 (名古屋市南区・会社員・55歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 ありふれた日常の出来事が不可思議世界に吸い込まれていく、朝岡みゆきさんの「新聞と猫」。猫の追いかけた文字が“ネズミ”だったら、もっと大騒動になっていたでしょうね。

 懐かしい学生時代の教育実習を思い返して、森登美さんの「虫かご」。都会ではまず体験できない心豊かな交流風景。お別れの日は“蛍の光”で見送ってくれたのでしょうか。

 子どもが親に投げかける素朴な質問に余裕で答えている間はいいのですが、高見直宏さんの「どっちが子ども?」。困った時は、ひとつ咳(せき)払いして、「まず自分で調べなさい」。

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