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【300文字小説】

萌え袖 福神三平

イラスト・瀬崎修

写真

 「ああいうのを萌(も)え袖と言うんだよ」と、一緒にテレビを見ていた息子が教えてくれた。

 テレビでは、制服のカーディガンの袖を手の甲まで下げて着ている二人の女子高生が、街頭インタビューを受けている。

 ちょっと大きめの服を着て、袖の長さが体に合っていない幼い女の子の感じだ。

 「萌え袖」とは、うまく言ったものだ。

 六十代の後半にさしかかり、太っているので胴回りの寸法を基準にしてシャツを買っている。

 どうしても太めのシャツを買ってしまうので、気がつくと甲が隠れるほど袖が長い。

 私も六十代の「萌え袖」をやっていた。

 (東京都港区・自営業・68歳)

◇ ◇ ◇ ◇

僕のクラス 服部雅充

 僕のクラスの学級委員長のA君は、みんなの人気者。

 だから、一学期に続いて二学期、そしてクラスではじめて三学期も続けて学級委員長に選ばれたんだ。でも最近、A君、少し強引なところがある。

 この間、クラス会で「卒業生を送る会」の出し物を話し合った。

 劇や合唱、いろいろな意見がでたけど、A君の親友のS君が、「劇がいいよ。それもA君を主役にした劇にしようよ」と言い出した。

 五十分の話し合いの時間も終わりに近づき、僕は「もう一回話し合いの場を作ろう」と言ったけど、議長のA君が採決を強行。

 結局、S君の意見が賛成多数で通ってしまったんだ。

 今、みんなで劇を練習中。

 劇は「裸の王様」、主役はもちろんA君だ。

 (千葉県八千代市・会社員・61歳)

◇ ◇ ◇ ◇

共生 池田東正

 ビルの谷間の空き地で野菜を育てている。作業は毎日、皆勤だ。雑草は全くない。支柱は直角水平、畝は等幅平行一直線、完璧だ。

 その様子を、マンションの三階から日がな一日眺めている爺(じい)さんが呟(つぶや)く。

 …オイオイ、畑をそんなに撫(な)でまくっちゃいけねえよ…草が芽を出す間もないじゃねえか

 …草はな、夜露を掬(すく)い上げる大事な器だぞ…とったら野菜の根元に置け、日除(よ)けの仕事をしてから肥やしになるから喜ぶぞ

 …それからミミズを殺すんじゃねえ、土を肥やしにしてくれるからな

 …あっ! 蜂に何か噴射しやがったな、受粉はどうするんだ

 …こらッ、蝶々(ちょうちょう)を追っ払うな!

 あぁあ、ダメだこりゃ。明日は帰ろ、隣に口から先に産まれた婆(ばあ)さんがいる田舎へ。

 (愛知県岡崎市・無職・72歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 “カワイイ”は、もはや世界語。ありきたりの制服も演出ひとつで可愛(かわい)いアイテムに早変わりする、福神三平さんの「萌え袖」。ただし、ご本人の袖丈は体形の都合でした。

 どこかで聞いたような状況が展開する、服部雅充さんの「僕のクラス」。A君の親友とされるS君、実は大変な策士で、A君の正体をみんなに明かそうとしているのかもしれません。

 隣の芝生ならぬ、眼下の家庭菜園が気になって仕方ない、池田東正さんの「共生」。几帳面(きちょうめん)すぎる手入れに文句を言いながら、思いはいつしか、人と人とが共に生きるふるさとへ。

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