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【300文字小説】

鳥の朝 林和希

イラスト・瀬崎修

写真

 ピチピチ。

 ひな鳥の鳴き声に、私は目を覚ました。餌が欲しい、のサインであることは明白。窓から見えるグレーの空は、朝が早いことを告げていた。

 私はパジャマのままで、眠い目をこすった。

 ひな鳥は、まだピチピチと鳴いている。もしかしたら、親鳥が帰ってきていないのかもしれない。

 私はパンを片手に外に出た。少しうるさいし、パンを食べたら静かになってくれるだろう、と思ったからだ。サンダルばきで玄関を開ける。

 静かな朝。涼しさが肌に染みいるようだった。

 そのとき、目の前を、さっと鳥が横切った。

 きっと親鳥だろう。私から子どもを守ろうとしたのだ。いいものをみた。(東京都板橋区・飲食業・23歳)

◇ ◇ ◇ ◇

動物の家族 柴田結奈

 「猫を飼うっていうのは、一筋縄ではいかないのよ」

 母の言葉は、実際に飼ってみて、ようやく実感することができた。毎日のブラッシングに、シャワー、排泄(はいせつ)物の処理、餌やりなど。

 「命を預かるっていうのはね、そう簡単にしてはいけないことなの。動物は可愛(かわい)いだけでは飼えないのだから、命を預かるという意識を持って、家族として迎え入れなさい」

 母の元から離れて、夢だった猫を飼い始めて、しみじみ思い知った。

 目の前で愛くるしく寝息を立てている可愛らしい顔に、幾度苦労したことだろう。

 でも、大変な思いをすればするほど可愛いと思うのは不思議だなあ。

 生活に欠かせない存在となった大切な家族の頭を撫(な)でて、隣で寝ることにした。

 (愛知県愛西市・会社員・21歳)

◇ ◇ ◇ ◇

そうめん 瀬戸桃子

 「えー、またそうめんなの」

 私と姉は口を合わせて母に言う。

 母は「ハイハイ、そうですよ」と、ゆったりした口調で返してくる。

 私は、このやりとりが嫌いじゃなかった。だって、母の作るそうめんは、つるっとのど越しが絶妙だったから。そして、あの時の私は母となり、そうめんの季節がやってきた。

 「そうめんでいいよ」

 娘がこう言うと、私はハイハイとは言えない。それは、そうめんの難しさを知ったから。火が強すぎると湯は吹きこぼれるし、適度にほぐさないと麺はくっつく。程よく手を掛けなければいけない。

 ふと、母の子育てを想(おも)った。でも、私は私なりの子育てでいいよね。

 「そうめん一緒に作ろうか」

 ゆったりとした口調で娘に言ってみた。

 (さいたま市見沼区・主婦・41歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 窓の外から聞こえる幼い鳴き声が気になって、林和希さんの「鳥の朝」。眠気を払いながらの思いやりが、子育て中の一途(いちず)な思いと交錯して、朝の空気が、いっそう、さわやかに。

 ひとつ屋根の下、いっしょに暮らす生き物との親密な触れ合いを見つめて、柴田結奈さん「動物の家族」。折に触れて母の言葉を思い返すことで、愛情が、なおさら深まりました。

 暑い季節の定番メニューといえば、瀬戸桃子さんの「そうめん」。でも、お手軽調理の代表と思われるのは、まことに心外。その秘訣(ひけつ)を教えるには、お手伝いが一番ですね。

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