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【300文字小説】

天使と悪魔 斉藤絢香

イラスト・瀬崎修

写真

 金の輪に白い羽をもつ天使と、とがった尻尾に黒い羽をもつ悪魔がいた。

 天使の役目は、人間に助言を授けること。逆に悪魔は、言葉で人間を惑わすこと。

 そんな真逆な役目の彼らだったが、不思議といがみ合うことはなかった。

 悪魔は、ふとそんな自分たちの関係を思い出し、天使に「どうして俺を嫌わないんだ?」と尋ねた。

 天使はキョトンとした後、にこりと笑って話し出した。

 「僕らの言葉は受け取る人によって捉え方が変わる。だから、僕を悪魔だと思う人も、その逆もいるかも。つまり、僕らはそう変わらない存在なのさ」

 言い切る天使に、悪魔はうなることしかできなかった。 (名古屋市昭和区・中学生・13歳)

◇ ◇ ◇ ◇

習いごと 今橋登夢

 もう薄暗くなった商店街を小さな影が駆けて行く。果物屋のおかみさんが、その影の主に声をかけた。

 「あら、ケンちゃんじゃない。そんなに急いでどこ行くの?」

 「習いごとぉ…いそがしくて、いやンなっちゃうんだぁ」

 「あらあら、大変ねぇ。なにを習いに行ってンの?」

 「今日はね、忖度(そんたく)とか…」

 「え、ええッ? ソンタク?」

 「うん。あと、もうひとつが難しいンだ」

 「なぁに? その、もうひとつは」

 「根回し」

 「あら〜そう。それは…ねぇ」

 なんでも根回しには級があって、1級まで昇級すると、次は「派閥づくり」に進むのだそうだ。

 (東京都羽村市・会社員・54歳)

◇ ◇ ◇ ◇

ウエディング・ベル 近藤行宏

 チャペルの扉が開く。新婦の娘と腕を組み、右足から一歩を踏み出す。

 娘と一緒に歩くのは何年ぶりだろうか。歩く順番は、右、左、左、右で、普段と勝手が違い、間違えないように神経は足ばかりに集中する。

 正面の十字架、神父の姿がおぼろげに霞(かす)み、出席者からの祝福の言葉は、はっきり聞こえない。

 やっとペースがつかめたころ、正面から盛装した一人の男性が現れた。

 じっと見つめ直すと、私と同様に緊張した新郎だった。

 お互いに一礼し、新婦と新郎は腕を組み直し、祭壇に向かって歩き始めた。

 心の中で叫んだ。

 「これで私の役目は終わった。後は頼んだぞ」

 席に戻り、忘れ物に気づいた。緊張のあまり、涙を浮かべなかったことを。

 (名古屋市千種区・財団職員・65歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 正反対の存在と思われているものどうしの対話を描いた、斉藤絢香さんの「天使と悪魔」。中学生の作品とは思えぬ奥深い寓意(ぐうい)に、評者もうなることしかできませんでした。

 学びの開始は早ければ早いほど…というわけで、今橋登夢さんの「習いごと」。トップクラスの昇級者には、引き続き、資金集めに関する特別講座が用意されているかもしれません。

 本人はもとより父親にとっても緊張の晴れ舞台、近藤行宏さんの「ウエディング・ベル」。ひとつ役目は終わっても、今度は、新郎から“おとうさん”と呼ばれる新しい役目が。

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