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【300文字小説】

桃の節句 吉田さをり

イラスト・瀬崎修

写真

 おばさんは、ひな人形を数十年ぶりに飾ってみました。

 人形供養に出そうかと思っていましたが、お内裏様や三人官女、五人囃子(ばやし)を見ていたら、なんだか、とても幸せな気持ちになってきました。

 それで手放すのはやめて、「これからは毎年飾ることにしよう」と決めたのです。

 さて、久しぶりに外に出されたひな人形たちの方は、箱のふたを開けたおばさんが一気に年を取っていたので、

 「わっ! 私たちが入っていたのは『玉手箱』だったのかしら」

 とビックリしました。

 (愛知県瀬戸市・主婦・57歳)

◇ ◇ ◇ ◇

漫才 新川京子

 私たちはボランティアで漫才をやっています。先日は老人ホームで、今日は大学の会場です。

 「みなさん、こんにちは。石川啄木子です。相方は明クン。よろしくお願いします」

 相方は知らぬ顔で、そっぽを向いたまま。

 「ところで明クン、私って、美人に見えるでしょう?」

 相方は知らぬ顔で、つまらなそうに、あくびをしています。

 「明クン、私って、スタイルいいでしょう?」

 それでも相方は、まったく知らぬ顔で、伸びをしています。

 「じゃあ、私って、お金持ちに見えるかしら?」

 相方は、相変わらず、知らぬ顔です。

 「あれ、もう帰るの? 明クン、待って!」

 会場は大爆笑です。

 私の相方は、三歳、オス、柴犬です。

 (岐阜市・パート・64歳)

◇ ◇ ◇ ◇

ぶっちゃけちゃった 吉村雅子

 反抗期のボクは、今日も父と大ゲンカ。

 「いったい、誰のおかげで大きくなれたと思ってるんだ!」

 父の決まり文句が、やけにムカついて、

 「なにもココに生まれたくて生まれたわけじゃねえよ」

 と言い放ち、“しまった”と思った。

 その時!

 「そんなの、父さんだって、そうだ」

 父の口から意外な言葉が。

 さらに、奥から声が響いた。

 「ワシだって、そうじゃ!」

 え、えーッ! じいちゃんまで?!

 三人はハッと顔を見合わせ、いそいそと仏壇の前に座り、黙って手を合わせた。

 ボクは祖父と父の背中を見ながら、不思議な縁で今ココにある自分の存在を大切に思った。

 (名古屋市千種区・主婦・49歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 ひな祭りから一夜が明けて、吉田さをりさんの「桃の節句」。数十年ぶりだとすると、この前飾られたのは前世紀。いきなりスマホを向けられた人形たち、アレはナニ? と驚いたはず。

 ボケとツッコミ、相方との間の取り方で楽しませる、新川京子さんの「漫才」。“私たちの芸は、いつだってナンバー…”と声をかけたら、“ワン”と答えてもらいたいところ。

 親子ゲンカの定番ともいえるやりとりをめぐって、吉村雅子さんの「ぶっちゃけちゃった」。世代を超えて受け継がれた共通の思いこそ、この家族の強い絆かもしれませんね。

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