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【300文字小説】

運命? 堀裕子

イラスト・瀬崎修

写真

 料理をしながら、ふと考える。一カ月後、あるいは近い将来、我が家の食卓にのる食材は、もうどこかに存在しているんだろうなと。

 ちょうど芽が出たばかりだったり、広い海を悠々泳いでいたり、土の中で養分を蓄えていたり…。

 そして時期がくると、日本中いや世界中のどこかから、私のもとへとやってくる。

 些細(ささい)な偶然か、それとも天命により電車のダイヤグラムのようにきっちり決められているのか、それはわからない。でも、運ばれてくる命だから、これも運命というものなのだろうか?

 そう考えると、現在どんな場所で、どんな状態でいるのか、とても興味津々だ。

 今は見知らぬ食材たち、待ってるよ!

 (岐阜市・主婦・52歳)

◇ ◇ ◇ ◇

夢のマシン 伊藤俊江

 便利なものが出来たものだ。

 レシピを口で伝え、スイッチを押せば唐揚げや餃子(ギョーザ)が出来上がる『すぐご飯マシン』。

 洗濯物を入れると洗って人工太陽光線で乾燥、たたまれて戻ってくる『いま着たいマシン』。

 今日は換気扇、今日はトイレと、掃除したい場所を選んでスイッチを押すと掃除してくれる『汚れなしマシン』。

 主婦の私の仕事は激減。

 空いた時間を子どもと遊ぶ時間に使おうと思ったら、子どもは『お友達ロボット』とゲームに夢中。

 子どもに声をかけると一言。

 「もうママは必要ないからいらない」

 「えっ?!」

 と、ここで目が覚めた。

 夢でよかった!

 今日も私の家事は山積みだ。

 (東京都東村山市・契約社員・51歳)

◇ ◇ ◇ ◇

卵の中身? 金子千佳子

 花壇に苗を植え、それぞれの横に卵の殻を置いておく。私が幼い頃は肥料の足しにと卵の殻を置いたものだ。

 今の子供達はそれを知らないらしい。

 我が家は通学路になっており小学生が賑(にぎ)やかに歩いていく。

 下校中の男の子が「ここに卵が植えてあるぞ。知っとるか」と友達に話していた。その表現に思わず苦笑してしまった。

 ある日、カラスの仕業か、卵がひっくり返され散らかされていた。それ以来、置くのをやめた。

 その後、別の男の子が「卵どうしたんですかー?」と言いながら歩いていった。

 子供達は想像の翼を広げていたのかもしれない。ポンと殻を割って、何か不思議なものが出てくるのではと。

 その夢を壊さぬよう、私はまた卵を置き始めた。

 (三重県松阪市・主婦・58歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 キッチンに並んださまざまな食材を眺めて、堀裕子さんの「運命?」。国内ばかりか遠く地球の裏側からも運ばれてくる命に思いを馳(は)せれば、決して無駄にはできませんね。

 必要は発明の母。ひたすら便利を追求して生まれた、伊藤俊江さんの「夢のマシン」。でも、気がついたら、かんじんの“母”が“必要”とされない時代がきてしまうかも。

 植木の周りに並べた卵の殻、最近あまり見かけなくなりました。となると、金子千佳子さんの「卵の中身?」。小学生の愉快な想像力は、どんな生き物をふ化させていたのでしょう?

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