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【300文字小説】

不思議な現象 西世古桂子

イラスト・瀬崎修

写真

 「おふくろに面差しが似てきたな」

 久々に会った兄が、私を見てそう言った。そんな兄の話しぶりは父によーく似ている。

 先日、夫がニコニコしながら私に言った。「今の話し方、君のお母さんにそっくりだよ」と。そう言う夫の後ろ姿は、お義父(とう)さんと瓜(うり)二つ。

 最近、身内に、こんな現象が次々と起きている。若い頃にはそれほど似ていなかった親子が、なぜかある時期から強烈に似てくるのだ。

 その現象は、子どもの方に、いくつかの前兆が現れる。シワが増え、声が低くなり、話がくどくなり、背中が丸まっていく…などなど。

 ある日を境に、親に似ていると言われ始めるこの現象。うーん、不思議だなあ…。

 (東京都東大和市・主婦・54歳)

◇ ◇ ◇ ◇

山里郷想曲 安江良樹

 田植えも終わり、緑一色となった山里が、淡い夕闇に包まれる頃。

 グエッ、グエッグエッ…という甲高い鳴き声が、どこからともなく聞こえてくる。

 やがて山里は、瞬く間に喧噪(けんそう)の渦に巻き込まれる。アマガエルの大合唱だ。

 合唱の隙間を縫って、キリリリッ、キリリリッ…とフルートのような澄んだ音色も聞こえてくる。シュレーゲルアオガエルだ。

 田んぼの畦(あぜ)に開けた穴から顔だけ出し、遠慮がちに奏でている。

 トノサマガエルといえば、早春、田植え前の水田で波を掻(か)き立て争った恋のバトルにすっかり疲れ果てた様子。

 眠たそうな目をして、時たま、グルルッ、グルルッ…と呟(つぶや)くように鳴いている。

 山里は素敵(すてき)なプロローグを演出し、初夏へと移ろっていく。 (岐阜県白川町・農業・87歳)

◇ ◇ ◇ ◇

母の卵焼き 藤吉楓

 高校生活で楽しみなのは、なんといってもお弁当の時間。

 その中でも母の作る卵焼きは特においしく、私は毎日、観察をかかさない。

 月曜日、ジャコ。塩味がきいて、おいしい。ジャコの割合、約20%。

 火曜日、ワカメ。二日続けて海の幸を入れてくるとは予想外だ。ワカメの割合、約20%。

 水曜日、チーズ。卵との相性は抜群。頬までとろけてしまいそう。チーズの割合、約10%。

 木曜日、ふりかけ。なかなかおもしろい組み合わせになってきた。ふりかけの割合、約10%。

 そして、とうとう金曜日。バリエーション豊富な母の卵焼きも、そろそろ限界だろう。

 お弁当を開ける。真っ黄色な卵焼き。母の愛情100%。

 こうして一週間が終わった。

 (岐阜県美濃加茂市・学生・16歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 親から子へと世代を超えて受け継がれる、西世古桂子さんの「不思議な現象」。顔つきや話し方、体形だけでなく、ちょっとした仕草(しぐさ)や考え方に、この現象が認められることも。

 静かな夕暮れ時を待って開演する、安江良樹さんの「山里郷想曲」。カエルたちの賑(にぎ)やかな合奏が生み出すのでしょうか、やがて水辺はオタマジャクシでいっぱいになります♪

 これは愉快な週間観察記録、藤吉楓さんの「母の卵焼き」。日々の一工夫に舌を巻き、純度100%の思いやりを味わう、お弁当タイム。週明けの昼休みが待ち遠しいでしょうね。

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