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【300文字小説】

夜更かしのひとびと 佐々木海羽

イラスト・瀬崎修

写真

 遠くに見える都会の明かりがすべて消えたら、代わりに無数の美しい星々が見えるのだろう。

 でも、人工の星で満ちている景色も悪くない、と僕は思う。

 自分の存在に気づいてほしそうなビルの明かり。集まって会話をしているように点滅を繰り返す赤いライト。日付を越えてもまだ消えない窓の光。無数の光のおかげで、景色が闇にのまれることはない。

 暗闇など知らず、都会は夜を明かすのだろうか。

 まだ明るい一つ一つの窓の向こうにそれぞれの物語があって、誰かのために働くひとがいて、そんな夜更かしのひとびとを、知らないふりして僕は眠る。午前一時四十五分。 (東京都練馬区・高校生・15歳)

◇ ◇ ◇ ◇

最後の赤い糸 白川初江

 「私が持ってた赤い糸って一本じゃないの」

 「え〜知らなかったよ」と驚いたのは、親指さん。「何本なんだい?」と人差し指さん。

 「十本くらいかな」

 「意外に多いんだね」と中指さんが感心。

 「でもね、強く引っ張りすぎて切れたり、反対に引っ張られてるのに気づかなくて恋が終わったり…残りの赤い糸は一本なの」

 「じゃあ、その一本に私の運命がかかってるのね」

 私のお隣の薬指さんが呟(つぶや)く。

 「そりゃ大変だ!」

 「最後の一本だなんてオ〜マイゴッド」

 「どうするつもりだい、小指さん」

 それから私は、最後の一本を毎日手入れして、ちょっとやそっとじゃ切れないくらい丈夫な赤い糸にした。

 一年後、私は薬指さんから「ありがとう」とお礼を言われた。 (愛知県蒲郡市・主婦・61歳)

◇ ◇ ◇ ◇

落下物 加藤又一郎

 先生が黒板に「万有引力」と書き、何が連想されるか聞いた。

 一斉に手が挙がった。真っ先はリンゴだった。

 「飛行機も落ちます」と物騒な声。

 「財布を落としました」

 「そそっかしいからだ」と誰かが茶々(ちゃちゃ)を入れ、笑いが渦巻いた。壊れた人工衛星…鳥の糞(ふん)…ドローン…東京スカイツリーから氷柱(つらら)…次々、様々な発言。

 「桐一葉落ちて天下の秋を知る」

 物知りが売りの眼鏡の生徒が愁いを含む声で答え、皆が「おーっ」と声を上げた。

 「隕石(いんせき)が見つかったそうです。音はしなかったんでしょうか」と小声の女生徒。

 「隕石ならストーンだ」

 「それじゃ腑(ふ)に落ちん。ガーン! だ」

 「なんだ、シャレか」

 騒然とする教室に、「静かにしろッ」と先生の雷が落ちた。 (岐阜県下呂市・無職・79歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 眠らぬ大都会の夜景を眺めて、佐々木海羽さん「夜更かしのひとびと」。小さな明かりの一つ一つが、どんなドラマを照らしているか…想像し始めると、眠れなくなりそう。

 その先は運命の人と結ばれているはず、白川初江さんの「最後の赤い糸」。残った一本を大事に大事に引き寄せて、ハッピーエンドにこぎ着けました。めでたし、めでたし。

 ニュートンが発見した法則に端を発して、加藤又一郎さんの「落下物」。飛び交う意見がダジャレ合戦に落ちかけたところで、最後は、教壇から落ちるべきものが落とされました。

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