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【300文字小説】

挑戦状 鳥井晴

イラスト・瀬崎修

写真

 私は、ある絵を見つめて−いや、にらんでいた。なぜなら、この絵は私の宿敵から送られてきた挑戦状だからだ。

 何が描かれているかというと…真っ赤な球体とそこから伸びる細い棒のようなもの…「リンゴ」である。さて、この挑戦状への最適な返事は?

 俺があいつに送った「リンゴ」の絵の返事が届いた。そこに描かれていたものは、実にシンプル。黒と白の小さな粒が二つずつ…「ゴマ」だ。

 ふむ、そうきたか。では、こうしよう。

 俺の「ゴマ」に対する返事は…もちろん、寝る時に頭の下に置く、アレである。

 (愛知県大治町・小学生・10歳)

◇ ◇ ◇ ◇

JK 内藤学佳

 彼女らは、独自の言語・文化を次々と生み出すヒットメーカーである。

 常に世の中の最前線に全神経を集中させ、改革を惜しまず、時代とともに変化し続ける柔軟性をも兼ね備えている。

 彼女らはまた、夏に空へとはばたくセミのようでもある。

 地中に潜む時間は長く、なんと十五年。

 その時を経て、ミンミンと大きな大きな音を立てながら、一斉にはばたき出す。

 しかし、自由にはばたける時は、わずか三年と儚(はかな)く切ない。

 汗ばむ陽気が増え、夏の始まりを感じさせる今日この頃。

 彼女らはすでに、きらめく羽をひろげて飛び立つ準備、そして、次のヒット作を生み出す準備を、着々と進めているに違いない。     

 (横浜市金沢区・大学生・18歳)

◇ ◇ ◇ ◇

山の恵みと少年 大原啓作

 「今から山へ行くぞ!」

 いちばん年かさの少年が、いつものように声を上げる。

 これは戦後間もない頃の話である。

 やがて、坊主頭の三人が集まった。全員が小学生だ。それぞれに必要な道具を持っている。縄や紐(ひも)、布袋、小さめな鎌など、慣れたもので目的に合わせ揃(そろ)えてきた。

 住宅地から十五分ほどの山里に向かう。

 目指す小山に入って探すのは、小枝、枯葉(かれは)、ほかにキノコでもあればもうけものである。

 当時は、風呂も米炊きもすべて薪(まき)だから、火を付ける材料が要る。キノコ類は貴重な食材だ。

 子どもたちは少しばかりのお駄賃を手にし、駄菓子屋へ走る。

 こうした山、川などの自然が恵んでくれる天然資源に、親たちは感謝した。

 (愛知県豊川市・無職・83歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 謎のイラストを突きつけられて、鳥井晴さんの「挑戦状」。宿敵の単純な返信に安心して、思わず百獣の王を描いてしまったら、そこであなたの負け。小学生作家の愉快な作品。

 女子高生の略語としてすっかり定着した、内藤学佳さんの「JK」。ネット世界を自在に開拓し、自由な発想で新しい流行を生み出す強力な発信力。彼女たちが、次に向かう先は?

 昭和二十年代、日本のあちこちで当時の小学生が体験していたであろう日常風景を振り返って、大原啓作さんの「山の恵みと少年」。彼らが跳ね回った野山は、今どんな姿でしょう。

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