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【300文字小説】

久助 赤谷康憲

イラスト・瀬崎修

写真

 煎餅やラスクを製造する過程で割れたりして商品にならなくなったお菓子を、この業界では「久助」と呼ぶ。

 お菓子工場に勤めて、はや三年。

 工場長より、「おまえも久助だな」と、たびたび言われ続けてきた。

 規定外のお菓子は工場入り口の売店で販売されるが、すぐ売り切れる。

 「この割れた部分が美味(おい)しいんだ」と、常連のお客さんはニコニコして大量に買っていく。

 「半額以下の値段でも、味は日本一」と、よく言われる。

 最近、工場長より「お前、久助は卒業したな」と言われた。少々複雑な気持ちだ。

 (相模原市緑区・アルバイト・62歳)

◇ ◇ ◇ ◇

気分は名探偵? 村上麗子

 今日もまた「X」からの挑戦状を前にして、名探偵はじっと考え込む。

 手掛かりは、必ずこの文章の中にあるはずだ。まずは、じっくり読む事だ。

 オヤ? ここに何やらヒントらしきものが…いやいや怪しい、何かが違うゾ。

 待てよ、コイツは、どうやら引っ掛けのようだ。フーッ、危うく敵の罠(わな)にハマるところだった。

 あぶねぇー、と冷や汗を拭う名探偵。

 …ン?

 そうか、ついに見つけたぞ! 答えにつながる二つの数字を。

 「X−8=6」つまり「X」は「14」以外にあり得ない。

 そう、真実はいつも一つなのだ!

 こうして、今日もまた難題を無事解決した名探偵は、満足そうに微笑(ほほえ)んで算数の宿題をしまい、アイスに噛(か)みついた。 (愛知県一宮市・無職・50歳)

◇ ◇ ◇ ◇

試合結果 石崎誠

 僕は三度の飯よりサッカーが好きである。

 日本代表が遠征で、テレビ中継が夜中であったり、朝早い場合は録画予約する。

 そして家に帰り、日本代表の試合を見ることが、この上ない幸せである。

 しかし録画を見るまでには少し困難がある。

 まずは行き帰りの電車で試合の話を絶対聞かないようにしている。

 次の試練は会社だが、サッカーの話題は巧みにすり抜ける。

 そして家に帰り、録画を再生しようとした、その時である。

 最大の敵が現れた。

 それは、母親である。

 母親は、サラッと「日本代表勝ったわよ」と言い残し、キッチンに去って行った。

 日本代表は勝ったが、僕は試合に負けた気分である。 (東京都世田谷区・会社員・37歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 味や香りは同じでも形が不完全なため弾(はじ)かれた割れ菓子の通称、赤谷康憲さんの「久助」。一般に価格が安く、ファンも大勢いますが、それに例えられた本人は解釈に困ります。

 謎解きミステリーの主人公になりきって、村上麗子さんの「気分は名探偵?」。アイスを食べ終わったら、次は、虫食い文書の穴を漢字で埋める国語推理にチャレンジしましょうか。

 同じような体験をなさった方も多かったのではないでしょうか、石崎誠さんの「試合結果」。ガマンを重ねてゴールに迫りながら、味方の余計なアシストで致命的失点。がっくり。

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