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【300文字小説】

冷やし中華 柘植富士子

イラスト・瀬崎修

写真

 暑い夏、献立に迷った時に冷やし中華は助かる。多少の手間はあるが、一品で何とか形になるものだ。

 早速取りかかる。野菜を切り、錦糸卵を作り、麺を茹(ゆ)で、いよいよトッピング。

 お父さんはダイエットにいいキュウリを多め。

 長女はトマトが大好きだから少し多め。

 トマトが大嫌いな次女の皿はトマト抜き。

 長男は苦手なキュウリの代わりにレタスを多め。

 錦糸卵は六等分。カニカマとハムは色が似ているから少し離してインスタもバッチリ。

 六種類の皿がテーブルに並ぶ。

 「それぞれ好みの冷やし中華、かんぺき〜」と思ってたら、食べ終わったおばあちゃんが一言。

 「私はゴマだれより、さっぱりしたショウユだれがいい」 (愛知県春日井市・パート・58歳)

◇ ◇ ◇ ◇

新・桃太郎 後藤結香子

 桃太郎は、イヌ、サル、キジを集め、鬼退治に向けての作戦会議を開きました。

 「諸君! 鬼退治へ出かける前に、注意しておきたい点がある」

 桃太郎が切り出しました。

 「退治するといっても、われらの目的は、あくまでも鬼を懲らしめることだ。くれぐれも、危険な攻撃、過度な暴力はつつしんでもらいたい」

 そして、説明を続けました。

 「すなわち、くちばしで鬼をつつく、牙でかみつく、爪でひっかくといった行為は禁止する」

 「じゃあ、どうやって鬼を懲らしめればいいんですか?」

 イヌ、サル、キジが尋ねます。

 すると、桃太郎は涼しい顔で、こう答えました。

 「鬼たちが嫌う、イワシの頭、ヒイラギの小枝を持ち込み、みんなで豆をまくんだ!」

 (名古屋市北区・主婦・40歳)

◇ ◇ ◇ ◇

枕難民 鈴木 千津

 枕は悩みのタネだ。どんな高機能の枕でも必ず首が痛くなる。

 売り場でオーダー枕の誘惑と戦っていると、ふとワゴンセールの枕が目に入った。

 うやうやしく棚に飾られた高級品と違い、無造作に山積みされた枕たちはひどく寂しげで、僕は思わずひとつ買ってしまった。

 何の期待もせず眠りについたその夜、夢に神様が現れた。

 「おまえが落としたのはオーダーの枕か? 高機能の枕か? それともワゴンの枕か?」

 きた! 「もちろんオーダーのです」と言おうとした瞬間、ヤツらの寂しげな姿が脳裏に浮かんだ。

 「…ワゴンの枕です」

 神様と枕が微笑(ほほえ)んだところで目が覚めた。

 あれ? 痛くない! 枕を見ると、今まで僕の頭があったところがハート形に凹(へこ)んでいた。

 (名古屋市緑区・柔道整復師・46歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 この季節の定番メニューといえば、柘植富士子さんの「冷やし中華」。家族それぞれの好みやリクエストに応じて、あれこれ工夫。見栄えにもこだわった自信作だったのですが…。

 今の時代、力ずくの鬼退治はもう古いというわけで、後藤結香子さんの「新・桃太郎」。節分アイテムを駆使する作戦ですが、こうなると家来を連れて行く意味が薄れてしまいそう。

 理想の睡眠を求めて、鈴木千津さんの「枕難民」。悩みを抱える主人公の夢枕に現れたのは、救いの神? いえいえ。彼の心がけに応えてくれたのは、ワゴン枕の優しい恩返し。

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