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【政治】

旧優生保護法 不妊手術の実態調査へ 愛知県立大・橋本明教授に聞く

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 旧優生保護法(旧法)の下、障害などを理由に不妊手術が繰り返された問題で、厚生労働省は月末にも実態調査に着手する。議員立法による被害者救済の動きも進む。国内外の精神医療史に詳しい橋本明・愛知県立大教授に、救済はどうあるべきか聞いた。 (柚木まり)

 −旧法により、約二万五千人が不妊手術を受けた。

 「(健康な子孫を残そうという)優生政策は、戦中の国民優生法と旧法で五十年以上続いた。国民優生法下では、精神障害などを理由に不妊手術を受けた人は一九四一年から四五年までで約五百人。精神疾患の遺伝に関する科学的根拠が乏しく、専門家が(手術に)消極的な姿勢を示した。それが旧法下でハンセン病患者らまで対象者を広げ、不妊手術が増えた」

 −日本の取り組みは諸外国と比較してどうか。

 「遅れていると言わざるを得ない。障害などを理由とした不妊手術の問題は、医療現場や当事者らに認識されながら放置されてきた。八〇〜九〇年代に欧州各国で問題が顕在化していたのに、(優生思想に関係する規定を削除した九六年の)旧法改定時や、その後のハンセン病患者への謝罪・救済の決定時、国は強制不妊手術問題に対応してこなかった」

 −救済に向けた動きがようやく活発化している。

 「今回、多くの人々に被害者の気持ちが届いたのは、当事者の声の力。『知らなかった』と驚く声が聞かれるのは、社会が無意識だった証拠だ」

 −人間の尊厳を踏みにじる差別が再び起きないために、どうすればよいのか。

 「これまで(同様の問題で)政治決着したケースはあるが、問題は風化する。同じことを繰り返さないよう、補償だけに終わらず、当事者の記憶や歴史を引き継ぐ決着が望ましい。ハンセン病では博物館ができた。記憶をつなぐ『装置』をつくれるかがポイントだ」

<はしもと・あきら> 1961年生まれ、浜松市出身。東京大学大学院医学系研究科博士課程中退。ドイツ・デュッセルドルフ大留学、山口県立大助教授などを経て、2003年から愛知県立大教授。

<旧優生保護法> 「不良な子孫の出生を防止する」との優生思想に基づき、1948年に施行された法律。厚生労働省によると、96年に母体保護法に改定されるまで、障害などを理由に約2万5千人が不妊手術を受けた。このうち本人の同意なく強制的に手術を受けさせられた人は約1万6500人に上るとされる。与党のワーキングチームが、来年の通常国会への救済法案提出を目指しており、超党派議連も協力する方針。

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◆ドイツ・スウェーデン 被害者に謝罪と補償

 欧州各国でも日本の旧優生保護法下と同様の法律に基づき、不妊手術が行われていたことが一九八〇〜九〇年代に社会問題化した。東京大大学院の市野川容孝(やすたか)教授(医療社会学)によると、ドイツとスウェーデンでは、国が被害者に謝罪や補償をしている。

 ドイツはナチス政権下に「遺伝病子孫予防法」(断種法)を制定。知的障害や精神疾患がある人を遺伝性の病気とした。強制不妊手術を受けた人は、四五年までに約三十六万人に上った。

 西ドイツ(当時)の国会議員が奔走して八〇年、被害者に一回限りの補償金が初めて支払われた。その後も被害者団体が活動を続け、八八年に西ドイツが責任を認め被害者への年金支給を開始。約一万三千人を対象としたが、高齢化が進み、今年一月時点で受給者は百三人にまで減少している。

 スウェーデンでは三五〜七五年、障害などを理由に強制不妊手術が行われ、被害が推定二万七千人に上ることが九七年の報道で判明。政府は独立した調査委員会を設置し、九九年に一人当たり約二百万円を支給する補償法が成立した。記録に頼らず、本人の意思に反しているとみられる場合も対象とした。

 日本の被害者救済策を検討する超党派議員連盟は十七日、勉強会を開き、市野川氏から欧州の事情を聴いた。議連会長で自民党の尾辻秀久元厚生労働相は記者団に「大変参考にしたい。記録や証拠の有無を言っている時ではなく、被害者が高齢になり(補償を)急ぐ必要がある」と語った。

 

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