東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 政治 > 紙面から > 10月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【政治】

私立幼稚園、便乗値上げか 保育無償化 制度不備を露呈

写真

 国民の税金で賄われる幼児教育・保育の無償化を巡り、思わぬ盲点が発覚した。保育料を独自に決められる私立幼稚園の「便乗値上げ」。少子化などで幼稚園の経営は厳しさを増しており、こうした事態は、実は一部で早くから想定されていた。専門家は「この国の保育制度の在り方を根本から議論するべきだ」と訴える。

◆不信感

 今年四月、東京都内の私立幼稚園で開かれた保護者説明会。長男(4つ)を通わせていた女性(39)は、園長の言葉に耳を疑った。「無償化が実施されると、保育料は当園に限らず値上げされると思います」

 来年十月の消費税率引き上げと同時に予定される無償化で、幼稚園には国から園児一人当たり月二万五千七百円まで補助が出る。この範囲であれば保護者は保育料を払う必要がなく、園長は「ご家庭の負担額はトータルで見ると下がるので、ご安心を」と強調した。

 女性はその後、働き始め、今は長男を保育所に預けている。

 「便乗値上げを招く無償化より、待機児童対策を優先してほしかった」と政府への不信感をあらわにした。

◆渡りに船

 幼稚園利用者は減少が続く。ピーク時の一九七八年度に国公私立で計約二百五十万人だった在園児は、二〇一八年度は約百二十万人と半数以下に落ち込んだ。少子化の進行に加え、共働き世帯の増加で利用者が保育所などに流れたのが原因だ。

 政府は長時間保育の需要の高まりを受け、一五年度に「子ども・子育て支援新制度」を創設。従来の幼稚園や認可保育所などと両者の機能を合わせた「認定こども園」が併存する仕組みとなった。

 一七年度までに私立幼稚園の約36%が新制度に移行。新制度では人件費などへの補助も手厚く、経営状態は堅調だ。「公的な仕組みに入らず、特色ある幼児教育を続けたい」などとして移行せずにいる幼稚園が“一人負け”の状況で、今回の無償化が「渡りに船」となった可能性がある。

 共同通信が全国百園を対象に実施した調査では、来年度に保育料を値上げすると答えた園から悲痛な声が聞かれた。

 「園舎を改築したので借入金を返済しなければならない。ずっと保育料を上げずに我慢してきたが限界」「保育所に比べ処遇改善のための補助金が低すぎる。保育士と幼稚園教諭との待遇格差が広がり、値上げをしても人材が集まらない」

 政府が五月にまとめた有識者による検討会の報告書には、便乗値上げを予見する一文があった。

 「質の向上を伴わない保育料の引き上げにより、国の財政負担で事業者の利益を賄うことがないようにすべきである」

◆仕組み

 今回の問題は、保護者の所得に応じて自治体が保育料を決める保育所や認定こども園と、独自に設定できる私立幼稚園が同じ子育て施策に併存する“矛盾”が生んだ副産物とも言える。

 英国やニュージーランドなど無償化を実現した国々は、あらかじめ保育所と幼稚園の制度を一元化。施設の種類にかかわらず、同水準の補助が受けられる。国の機関が全施設について保育の質をチェックし、内容を公表しており、質の向上を伴わない値上げはできない仕組みだ。

 国内外の保育政策に詳しい日本総研の池本美香主任研究員は「日本で最も問題なのは便乗値上げなのか、真に必要な値上げなのか判断できないことだ。無償化の前に、幼稚園と保育所の一元化など、保育制度のあるべき姿を再度議論する必要がある」としている。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報