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【埼玉】

障害者が車いすクリーニング 吉川の「ひだまり介護事業部」

車いすの汚れを丁寧に拭き、きれいに仕上げていく長沼さん(右)と鈴木さん=いずれも吉川市で

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 さまざまな障害のある人たちが、車いすのクリーニングを仕事にしている福祉作業所がある。吉川市の「ひだまり介護事業部」。ここに通う障害者に、体の不自由な人やお年寄りのために働いてほしい−。職員のそんな思いで6年前に始まり、今では関東各地の病院や高齢者施設から請け負うように。ピカピカにした車いすを届けて「ありがとう」と喜ばれる障害者は給料もぐんと上がり、仕事が生きがいになりつつある。 (杉本慶一)

 吉川市北部の水田が広がる一画に、工場のような大きな建物がある。その中で、知的障害者の長沼裕基(ゆうき)さん(20)=三郷市=と身体障害者の鈴木真一さん(47)が台上の車いすに向き合っていた。

 長沼さんは小さな車輪(キャスター)を工具で外し、流し場で水洗い。鈴木さんは大きな車輪のスポークや車軸にこびりついた汚れを拭き取り、高温の蒸気で消毒していく。最後に二人でタオルやウエスで全体を丁寧に磨き上げた。「OKです」。約二十分間、作業を見守っていた「ひだまり」施設長の土屋紘一さん(38)が笑みを浮かべた。

 ここが、NPO法人「なまずの里福祉会」が運営する「ひだまり介護事業部」だ。知的や身体、精神障害のある二十歳〜五十代の男女十五人が市内外から通い、車いすや介護ベッドを洗浄・消毒したり、中古品を販売したりしている。こうした仕事を手掛ける福祉作業所は県内ではほかにないという。

 発案したのは、同福祉会理事長の星座正俊さん(43)。星座さんが施設長を務めていた二〇一〇年、県外の作業所の取り組みをヒントに始めた。しかし当初は仕事の依頼がほとんどなく、“開店休業”が続いた。そして翌年に同福祉会に就職した土屋さんが力を入れたのが、営業活動だった。

 そもそも、車いすをクリーニングする必要性を考えたことがない病院や高齢者施設が少なくなかったという。「そこで『車いすの汚れは院内感染のリスクになる』『入所者の家族が来たとき、車いすが汚いと気持ち良く思わないのでは』と説明して回り、納得いただいた」と土屋さん。

 一一年度に洗浄・消毒した車いすや介護ベッドは約二百五十台だったが、昨年度は約四千五百台に。顧客は関東の各都県と静岡、山梨両県の約百団体・社に増えた。障害者の工賃(賃金)も一一年度の月額平均約一万円から、昨年度は約二万八千円にアップした。

 七年前に脳の病気で倒れ、左半身まひの後遺症がある鈴木さんは「汚れている車いすより、きれいな方がいいじゃないですか。だったら一生懸命きれいにしたい。僕がここで働けるのは(作業所や家族ら)みんなのおかげ。その恩返しがしたい」と熱く語る。

 長沼さんは週五日、電車で一時間かけて通っている。「仕事は最初は難しかったけど、だんだん慣れていった。(クリーニングした車いすを)納品するときに『ありがとう』と言われるのがうれしい」

 土屋さんは「障害者は自分が『ありがとう』と言う機会は多いけど、『ありがとう』と言われることは少ない。この仕事を通じてたくさんの人から感謝され、自分が必要とされているんだ、という気持ちを持ってもらえれば」と願う。

     ◇

 ひだまり介護事業部の問い合わせは、同部(吉川市南広島)=電048(999)6555=へ。

<障害者の作業所と賃金> 「ひだまり介護事業部」のような福祉作業所は、一般就労が困難な障害者に働く機会を提供したり、就労訓練を行ったりする「就労継続支援B型事業所」と呼ばれる。2014年度末でB型事業所は県内に318カ所あり、障害者の賃金に当たる「工賃」は14年度で月額平均1万3950円(前年度比641円増)。全国平均を888円下回り、都道府県別では34位(前年度35位)。県は、障害者年金と家賃補助と合わせて障害者が自立して生活できる工賃として月額2万円を目標に掲げている。

 

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