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【埼玉】

<ひと物語>秩父を彩る音色探し 篠笛職人・田島秋彦さん

篠笛づくりに携わる田島さん=秩父市で

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 山野に囲まれた秩父市の郊外。築百年ほどの古民家に、篠笛(しのぶえ)職人田島秋彦さん(69)の工房がある。田島さんが手に取るのは大人の肩幅ほどの篠竹。竹の腹の部分を小刀でくり抜き、指穴を開ける。穴の数は六つ、または七つ。篠竹を水平にしたり、指穴に目を近づけたりと、外観にも気を配る。次は音。口を当てる歌口から息を吹き込んで「フィー」。望みの音色を追い求め、再び小刀を手にとる。

 秩父の地は言うまでもなく伝統芸能、秩父屋台囃子(やたいばやし)のふるさとだ。太鼓と鉦(かね)、それに篠笛が小気味よく華やかな調べを奏でる。田島さんも長く屋台囃子の演奏に携わってきた。しかし、市販の篠笛にどうしても納得がいかなかった。「ピーッと高く抜ける音が出ない。それならと思って」。二〇〇五年、自作を始めた。

 手ほどきをしてくれる師匠はいない。文献を繰ったりインターネットで情報を調べたりして、つくり方を独自に研究した。歌口の切り込み、指穴の大きさ。「四、五年ぐらいは大変だった。十年ぐらいやってようやくものになってきたかな」と田島さん。

 篠笛づくりには年単位の時間と手間暇がかかる。篠竹は節の長い県南や茨城県の素材を使用。二、三カ月ほど天日で干した後、煮沸して油分を抜く。再び二、三カ月ほど日に当ててから、今度は三〜五年の間、屋内で陰干し。指穴や歌口を整えた後、中に漆を塗ったり、周りに籐(とう)をまいたりして仕上げる。

 販売は当初、インターネットだった。手ごろな価格と質の高さが評判を呼び、北海道から九州まで注文が舞い込んだ。受け取ったメールには「思った以上に立派すぎてびっくりした」との声も。一本試しに購入した後、四本、五本とオーダーする青森県の愛好家もいた。

 地元秩父での展開は一一年から。百貨店で開催された他の作家との展示会をきっかけに、作品が知られるように。神楽や獅子舞、人形芝居など、豊かな伝統芸能が息づく秩父だが、笛は市販品でまかなうのが一般的だった。「秩父にこんなのつくる人がいたんだ」と、驚きを持って受け止められたという。

 田島さんが手掛けた篠笛は約千六百本。ネットで全国から注文を受けるだけでなく、今では夜祭や川瀬祭、神社の神楽など、秩父を彩るさまざまなシーンで愛用されるようになった。田島さんは「自信作と言い切れるのはこれまで二十本あるかないか。妥協することなく、死ぬまで努力を続けたい」と言い切る。 (出来田敬司)

<たじま・あきひこ> 秩父市生まれ。県立秩父農工高(現県立秩父農工科学高)を卒業後、建材会社を経て、電機部品会社で磁気ヘッドの製作などに携わる。2005年から篠笛づくりを手掛け、現在は尺八も制作。「篠笛工房 竜水」主宰。秩父の職人でつくる「YOSAGE(よさげ)秩父の手しごと衆」にも加わる。

 

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