東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 埼玉 > 記事一覧 > 5月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【埼玉】

<汽笛響く 秩父鉄道SL30年> (下)8月から東武参入

写真

 四月中旬のある日、久喜市の東武鉄道南栗橋車両管区にSLが姿を現した。黒煙をあげながら訓練運転を繰り返す様子を、線路脇の見学者コーナーに陣取った熱心な鉄道ファンらがカメラで追っていた。

 ファンのお目当ては東武鉄道が八月十日から鬼怒川線の下今市−鬼怒川温泉間一二・四キロで運行を始める予定のSL「大樹」だ。使われるのはJR北海道から貸与されたC11形207号機。ファンらが「カニ目」と呼ぶ二つの前照灯がある珍しいタイプだ。

 日光・鬼怒川地区の観光活性化を目指す東武鉄道はSLを起爆剤にしたい考えだ。ただ、なんといっても東武鉄道にとってSL運行復活は約半世紀ぶり。当然、SLを運転できる機関士が社内にいなかった。そこでSL運行の先輩・秩父鉄道が一役買った。

 昨年一年間、秩父鉄道は東武鉄道の仲沼和希さん(49)、真壁正人さん(48)の二人の研修生を受け入れた。

 SLの運転は、気象条件やけん引する客車の乗客数に応じた細かな調整が必要で、長年の経験がものをいう。「電車に比べて数倍難しい」(秩父鉄道のベテラン機関士)。出庫前の点検は、電車の点検項目が約五十なのに対し、SLのそれは百九十一もある。

 真壁さんは「SLは加速もブレーキも電車とは全く違った。教わった技術を大樹の運転に生かし、多くのお客さんに楽しんでいただきたい」と顔を輝かせる。

 八月からの東武鉄道の参入で、県北を含む北関東エリアでは、SLの定期的な路線が計四社五路線になる。秩父鉄道のほか、JR東日本の「SLみなかみ」(上越線高崎−水上間五九・一キロ)、「SL碓氷」(信越線高崎−横川間二九・七キロ)、真岡鉄道の「SLもおか」(真岡線下館−茂木間四一・九キロ)だ。

 新たなライバル出現に、各社とも警戒を強めていると思いきや、「北関東ほどSL路線が集積しているところはない。連携してSLを楽しめる環境づくりを進めたい」(大谷隆男秩父鉄道社長)、「北関東を走るSLが増えることで、多くの方々にSLの魅力を知ってもらう機会が増える。群馬県の活性化にもつながる」(JR東日本高崎支社)と、むしろ歓迎ムードだ。

 東武鉄道も「例えば高崎駅でSLに乗って『SLっていいなあ』と思った人が『今度は日光でも乗ってみよう』となれば互いにメリットになる」(広報)と共存共栄を目指す。

 実際、四社は大樹の運行開始を前に合同のPRイベントに乗り出す。今月十五日から九月十日まで、四社のSL路線と鉄道博物館(さいたま市)などを巡る「SL&鉄道の博物館スタンプラリー」を実施する。自社のエリアを超えた新たな連携の形だ。

 幼いころから秩父鉄道をはじめ各地のSLを「毎年十回以上乗りまくってきた」という熊谷市のSLファン竹内勇太さん(22)は、こうしたSLがつなぐ鉄道会社の新機軸を歓迎する。

 「四社のSLにはそれぞれ個性があり、乗り心地や見どころも異なる。競い合うことで魅力やサービスのレベルが高まる相乗効果に期待したいですね」

 都心から最も近いSL・パレオエクスプレス。県北、秩父の豊かな自然と人々の思いに支えられ、三十年にわたって走ってきたその軌跡は、新たな仲間を巻き込みながら、まだまだ続いていく。 (花井勝規)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】

PR情報