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【埼玉】

<ひと物語>口で描く絵に生きがい 身体障害者の画家・梅宮俊明さん

水泳競技の様子を描く梅宮さん。さまざまな色を使い、躍動感を表現している=越谷市で

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 越谷市大里の自宅にあるアトリエ。車いすに乗った梅宮俊明さん(51)が絵筆を口にくわえ、キャンバスに向かっていた。

 十九歳のときに交通事故で大けがを負い、両手足が不自由になった。「人生は一変したけど、絵を描くことが生きがいになった」。その証しにと、油絵を描き続けている。

 三十二年前、知人が運転する車に乗っていて事故に遭った。一週間後に病院で意識を取り戻したが、首から下の感覚がない。医師には「頸椎(けいつい)損傷による四肢まひで、この先、手足は動かせない」と告げられた。

 父親の亮(まこと)さん(故人)は、既製服の仕上げでアイロンをかける工場を経営していた。いずれ後を継ぐつもりだったが、諦めるしかない。「入院中は不安が募るばかり。早く死にたい、と何度も思った」

 退院して自宅に戻ったが、一人では何もできない。母親の町子さん(77)と叔母がしばらく、交代で介護に当たった。亮さんは休日になると、外に連れ出してくれた。ただ普段は自宅にこもり、テレビやパソコンで暇をつぶしていた。

 転機が訪れたのは三十代半ば。越谷市障害者福祉センターこばと館で開かれている絵画教室に、たまたま参加したのがきっかけだった。絵画に興味はなかったが、講師らに「口で描いてみませんか」と勧められた。「絵を描けば、自分が生きる証しとして残せるかもしれない」と、教室に通い始めた。

 絵筆を口に長時間くわえ、ぶれないように動かすのはつらい作業だ。最初の風景画が完成するまで一年間もかかった。と同時に大きな達成感を味わった。「やればできる」。油絵にのめり込むようになった。

 モチーフは旅先や思い出の風景、飼い猫、スポーツなど。二〇〇六年と〇七年に障害者の美術展で入賞し、〇九年には、世界各国の障害者が所属する「口と足で描く芸術家協会」(本部・リヒテンシュタイン)の奨学生に選ばれた。

 一一年の三月下旬。東日本大震災が起きて間もないころ、初めての個展をさいたま市内で開いた。被災地から県内に避難してきた年配の女性が来場し「震災で落ち込んでいたけど、絵に勇気をもらった」と声を掛けられた。「そう言っていただき、自分の励みになった。もっと絵を描き、人に見てもらいたいと思うようになった」

 これまでに描いた作品は約九十点。美術展への出品だけでなく、県内外の小中学校に招かれ、絵を描く実演や講演もしている。「自分の好きなことを探してほしい」。それが一番、子どもたちに伝えたいメッセージだ。 (杉本慶一)

<うめみや・としあき> 東京都荒川区出身。越谷市在住。現在、越谷市の「イオンレイクタウンmori」1階で開催中の「こころのアート展」に作品を出品している。同展は9日まで(午前9時〜午後5時。9日は午後3時まで)。同展の問い合わせは、越谷市障害者福祉センターこばと館=電048(966)6633=へ。

 

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